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「クラスのなかで1人2人がこっそり聴くような音楽でありたい」 ーーALI PROJECT30周年ライブレポート

今年2022年にデビュー30周年を迎えた、宝野アリカと片倉三起也によるユニット・ ALI PROJECT

30th ANNIVERSARYを記念するニューアルバム『Belle Époque』をひっさげたツアーの東京公演が、2月5日豊洲PITにて開催された。

Otona Alice Walkが目撃してきたその模様をお届けしたい。

ヴォーカル・宝野アリカは、長年にわたりロリータファッションの愛好家としても知られ、雑誌『ゴシック&ロリータ バイブル』などではファッションリーダーとしても唯一無二の存在でありつづけてきた。
少女の夢、頽廃美、ファンタジックなモチーフなど、ロリータと親和性の高い美意識は、楽曲のなかにも脈々と流れている。
ロリータを語るうえで必ず通るべき音楽――ALI PROJECTのことをそう認識している人も多いかもしれない。

今回の公演でも中盤に披露されたヒット曲「聖少女領域」など聴いていると、やっぱり王道ゴシックロリータに身を包んで聴きたい……!という気分になってくる。
ALI PROJECTファンのロリータファッション人口が多いのも、ライヴを体感するとますます納得できた。

ALI PROJECTの音楽は、特徴的ではあるけれどひとくくりにカテゴライズするのがむずかしく、壮大でありながらパーソナルな世界だと思う。
それはまるでロリータファッション文化そのものみたいだ。
和のムード漂う”大和ソング”、頽廃のなかにひとさじの甘さがきらめくゴシック・ロマン、さまざまな時代からのインスピレーション……
そんな膨大なディスコグラフィーから組まれた本公演のセットリストは、長年のファンだけでなく、どの曲から聴こうか迷っているアリプロ初心者の道しるべともなってくれるように思えた。
とくに、ニューアルバムのテーマが「ベル・エポック」ということもあり、歴史のなかの多種多様な「美しい時代」を私たちにみせてくれるような、めくるめく時間だった。

「ベル・エポック=美しい時代」それはアリプロの30年

アルバムタイトルにある「ベル・エポック」とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランスで新しい文化が栄えた華やかな時代のこと。
豊洲PITのステージ上には、そのベル・エポックを思わせるアール・ヌーヴォー調の植物のような曲線模様が張り巡らされ、ライトが照らすと螺旋階段に立つ宝野アリカが浮かび上がった。

時空を超えて迷い込んだ仮面舞踏会のような空間に、1992年のメジャーデビュー曲「恋せよ乙女」が高らかに響き渡り、豪華絢爛な一夜の幕開けを告げる。
続いて『Belle Epoque』の1曲目、「アタシ狂乱ノ時代ヲ歌ウ」。祝福と刺激に満ちた最新アルバムを代表する、アグレッシヴかつ多幸感ある曲だ。

「“地獄”とか“外道”とかいう言葉をいかに美しく使うか、それが私の永遠のテーマです」
宝野がそう語ると、ステージの雰囲気は一変して和の世界へ。
歌詞にちなんだ「がしゃ髑髏」の着物を羽織って披露したのは、新曲「恋闇路」と、「まだら恋椿外道」。

「恋闇路」は、東京ステーションギャラリーで昨年開催された「コレクター福富太郎の眼」展 で展示されていた、北野恒富の日本画《道行》にインスパイアされて生まれたのだそう。 心中へと向かう男女ふたりの、陶酔したような、悟ったような、だけどどこか不安そうな風貌 と、ふらりと飛ぶ鴉。
宝野がその絵から受けた衝撃は、哀しくも力強い一曲となり、死を覚悟した恋人同士の刹那を私たちに映し出す。
こうしたジャポネスク曲が続いた後、 「だいたい私は、”人間”でいたくないんです。”妖怪”になりたい」
とつぶやいた宝野。

たしかに、その歌声は私たちの心の奥底に眠る少女の代弁のような印象も強いけれど、闇や死をみつめる曲のなかでは、幾千年もの時を変わらぬ姿で生き続ける異形の存在のように聴こえるときもあるのだった。

時間旅行は、今の美しさも教えてくれる

そしてクライマックスは、100年以上にわたる時間旅行……!
ALI PROJECTがこれまでさまざまな時代をテーマにつくってきた歌は、ついに明治、大正、昭和、平成、令和と揃ったのだそう。

まずはニューアルバムから「大正撫子モダンガール」。
大正ロマンの世、断髪して洋装に着替え、新たな文化を切り拓いていったモダンガールたちのことを歌った一曲だ。

「大正時代のおしゃれな人たちが見ていた先に、いまの私たちがいる。そしていまの私たちが見ている未来の先にいる、誰かのために歌います」

宝野は、かつてのモダンガールのようにいまの時代の最先端を切り拓く存在として、ゴシック&ロリータの女の子たちを例に挙げた。
その言葉を反芻しながら歌を聴いていると、大正時代にもきっと、いまのロリータたちと共感しあえるような精神をもった女の子たちがいたのだろうな、という想像がふくらむ。
彼女たちが思い描いた未来に今いる私たちは、これからどんな文化をつくっていけるだろうか。

さらに時は明治まで遡り、「華族になったつもりで聴いてください」と「鹿鳴館ヴギウギ」が披露された。間奏ではオーディエンスが手拍子をする一幕もあり、スウィンギングなムードが高まっていく。

その興奮冷めやらぬまま、ロマンティックなストリングスと甘い歌声にみちびかれて、架空の記憶 がよみがえるような「昭和恋々幻燈館」。
続いて、「平成の歌だけなぜこんなに尖っているんでしょうね……」と、ここで空気ががらりと変わり、過去を打ち破って21世紀に向かう刺々しさを帯びた「平成青春残酷物語」。

そしていよいよ、優しいヴァイオリンとピアノの音色に乗って、私たちが生きる令和時代が訪れた。
新曲「令和燦々賛歌」は、元号の由来となった万葉集の和歌を彷彿とさせる歌い出しから、晴れわたる空のように開放感あふれるメロディーと詞が流れてゆく。
さっきの“地獄”ゾーンやゴシック・ロマンのムードとは打ってかわって、子どもからお年寄りまで手を取り合って踊れるような清々しさ。
ああ、令和ってこんなに美しい時代だったんだ。これまで様々な時代を追体験してきたのは、今を新鮮な眼で見つめなおすためだったのだと気付かされる。
そんな幸福感の余韻に浸ったまま、「NHKのEテレに使っていただきたい」とMCで語られたポ ジティヴな一曲「日出づる万國博覧会」のファンファーレを浴びた。
ベル・エポックの時代に開かれた万博のイメージと、ALI PROJECTがつくってきた多彩な楽曲を重ね合わせた一曲。
宝野が語ったように、自分たちもこの30年間「美しい時代」を歩んできた、という自負2が込められたのがアルバム「Belle Époque」なのだとしたら、このライヴこそが、まさに”博覧会”だったのだ。

思えば元号が令和に変わってからの日々は、制約と混乱の中で目まぐるしく流れ去っていったような感覚だった。
でも、いま敢えて「美しい時代」を歌う宝野アリカの声を聴いていると、いや私たちだってこのドラマティックな月日を生き抜いてきたんじゃないか、と誇らしくなってくると同時に、いま生きている世界を、そして自分をもっと愛したい、と思えてくる。

誰もが歴史のなかを歩んでいる。
年齢も重ねていくけれど、その数字はさまざまな時代を冒険してきた証、ともいえる。
苦労も絶望も経験しながら生き続ける私たちは、少女の天真爛漫さをたずさえたまま壮大な物語を語るような、不思議な存在でいたい。
時に吸血鬼や妖怪、時に純粋無垢な少女でもある、ALI PROJECTの歌の中の登場人物のように。

宝野アリカ――私たちが「アリカ様」と呼ぶ彼女は、音楽を通してその理想の姿をみせてくれているような気がした。

宝の在りかでまた逢える

3曲も贅沢に披露されたアンコールのお別れの一曲は、ニューアルバムから 「Café d’ALIで逢いましょう」だった。

これは、今までALI PROJECTの曲中に登場したさまざまな場所の名前が散りばめられ、長年アリプロを好きでいてくれた人たちへのお礼のような曲に仕上がっているのだという。

誰もが戻ってくるわ / 宝の在りかみたいな場所

「Café d’ALIで逢いましょう」

そう締めくくられる一曲。
"宝野アリカ”というアーティストの存在を、"宝の在りか"という場所としてはっきりと示してくれたのは、30年の歴史のなかでもこの曲が初めてなのではないだろうか。
「クラスのなかで1人2人がこっそり聴くような音楽でありたい」と、MCで宝野は語っていた。
多数派に馴染めない人にも、孤独感をぬぐえない人にも、「こんな美しい世界もあるよ」と教えてくれるのがALI PROJECTの音楽なのだと思う。

これからアリプロの世界へ足を踏み入れる人にも、ずっとアリプロと共に生きてきた人にも、「Café d’ALI」の扉は開かれている。私たちの宝物がある、秘密の場所として。

そう思うと、始まったばかりのこの春も、勇ましく前に進んでいけるような気がするのだった。


取材&執筆/大石蘭(Otona Alice Walk編集部)

ライブ写真撮影/小野寺廣信
ライブ写真提供/勇侠会

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続いてOtona Alice Walk編集部・鈴木真理子による衣装レポート(宝野アリカインタビュー付き)もお楽しみに!


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