大人漫画趣味者の投票行動
皆さん、選挙には行かれていますか。
特に衆議院議員選挙の場合は、首相が「伝家の宝刀」を抜いたりして、「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」となると、こちらも「すわっ、選挙や!今度こそお仕置きしたる!」と興奮しますよね。
では、大人漫画趣味者はどういう投票行動をするのか、僕をサンプルに、解説しましょう。
まず、選挙は代議員を選ぶものです。彼ら彼女らはあくまで代議員ですから、我々の声を反映するだけでよいのです。余計なことはしなくてよいです。ですから、本当はAIでよいのですが、そのことについては面倒な話になるので議論しません。
代議員を選ぶことはとても重要な行為です。「投票当日に決める」なんてことをしてはいけません。事前にポスターや選挙公報で、それぞれの候補者の主張を「熟知」しておきましょう。ポスターの場合は限られた主張しか記載されていないので、「サングラスを取ったみうらじゅんじゃん」「可愛いおねえちゃんに入れたい、幸福実現したい」「きれいなおばさんじゃん、夜の秘書足りてるかな」「キャリアはプラス?すっとぼけたこと言ってんじゃねえ」といった、些細な感想で終わりがちですから、きちんと選挙公報を読みましょう。この選挙公報は、後に自家製のコラージュを作成する際に有用ですので、取って置きましょう。
さて、投票です。当日投票と期日前投票がありますが、どちらでもよいです。仮に当日投票にしましょう。そうですね、晩御飯を食べてから、一杯引っかけて、夜7時くらいに投票所に向かいます。この際、ランニングシャツ、着流し、全身タイツ、省エネルックなどは目立つので、ごく普通の、そこらへんにいるニートといった服装で向かいます。
投票所は、小学校の体育館かなんかです。普段は入れず、しかも夜、場所は違えどかつての自分も通っていた懐かしの空間です。「学校って離れてみるといいもんだな」などとセンチメンタルな気分になりながら、会場に入ります。意外に人が来ていて、列を作って並んでいます。「アトミックのおぼん」みたいなお姐さんもいますし、「ポンコツおやじ」そのままのおじさんもいますし、「ヤネウラ3ちゃん」みたいな青年もいます。受付を済ませ、選挙管理委員会の人たちの神妙な顔を眺めて、「ごきげんヨーちゃん」みたいな可愛い顔で迎えてくれよなあ(泣)と思いつつ、おもむろに投票用紙に立候補者の名前を記入する台に向かいます。この人たちは神妙な顔をしていますが、監視者でもあるので、注意しましょう。試しに5秒ほど見つめてみてください。「おや、不審者か」と少し動きますから。人によっては「見られている!」という快感が脳を突き抜けてしまう場合がありますが、あまり興奮して洩らさないでください。「接して洩らさず」が貝原益軒先生以来のセックスの要諦ですが、接してもいないのに洩らすとは何事ですか。
正面に候補者の名前が書かれた紙が貼ってありますから、よく見ましょう。間違って記入してはならないからです。
「横山隆一、近藤日出造、清水崑、杉浦幸雄、小島功、加藤芳郎、矢崎武子、石川進介、西川辰美、那須良輔、松下井知夫、秋好馨、サトウサンペイ、佐川美代太郎、境田昭造、岡部冬彦、根本進、小川哲男、金親堅太郎、富永一朗、鈴木義司、上田一平、井崎一夫、六浦光雄、改田昌直、佐藤六朗、歌川大雅、森熊猛、佃公彦、東海林さだお」などと書いてあるのを見て、「え、どれもいいじゃん、みんな◎だ、いったん家に帰って検討してきていいっすか」と思うのは、行き過ぎた大人漫画趣味のなせる錯覚で、実際には何ら魅力のない文字列が並んでいます。舌打ちしましょう。
ここで、普通は誰に投票するか迷うのですが、僕の場合は有効票を投じるか、無効票を投じるかで迷います。いや、正直に言うと、最初から無効票を投じるつもりで来ています。迷いはありません。
無効票投票にもいろいろな種類があるので、以下詳しく書いていきましょう。
1.「白票を投じる」
最も安易な方法ですが、意外に広く行われています。
2.「彩色した白票を投じる(コミュニストの場合)」
「白票」は資本家の色を持つ票だ、許さない!と、持参したルージュ、あるいは既に唇に塗っているルージュなどで、白票を赤く彩色します。本格的に主義者な人は、自らの指を噛み切って、血で塗ります。
3.「彩色した白票を投じる(アナキストの場合)」
同じ論理ですが、こちらは簡単で、その場に置いてある鉛筆などの筆記具で彩色します。ムラのないように真っ黒に塗りましょう。
4.「投票用紙を切断して投じる」
いかに監視者に気付かれないように切断し、投票箱に投じるかが問題です。直前までは手のひらで隠すように持ち、サッと入れましょう。手品の要領で。
5.「候補者以外の名前を書いて投じる」
これも広く行われています。亡くなった祖父の名前を書いて供養とする、にやにやしながら好きなアイドルの名前を書く、又吉イエスや赤尾敏や東郷健など故人となった有力候補の名前を書いて既成政党に抗議の意志を示す、などいろいろな書き方があります。「世間が自分を認めてくれない!」という少年のような心の持ち主は自分の名前を書きます。
6.「似顔絵を描いた票を投じる」
絵心の有無が問われます。加藤芳郎や富永一朗など似顔絵が描きやすい漫画家がおすすめです。
7.「文章を綴った票を投じる」
政治や社会への恨みつらみを細かい文字で書き連ねた票を投じます。裏表にびっしりと書くのがコツですが、時間はかかります。最終的にはお経のように見えますので、信心深い方なのかな、と監視者も気を許します。
8.「ギリギリ票を投じる」
有効票となるかどうか「ギリギリ」の票でスリルがあります。いくつか方法がありますが、二、三、紹介しましょう。
一つは持参した「スキッとレモンC」(サンガリア)によって候補者名を書きます。若干表面に皺の寄った白票に見えますが、「炙り出し」をすることできちんとした投票となりますので、「ギリギリ」です。
一つは候補者名をデコレーションするということです。例えば「杉浦幸雄」と書く場合、「杉」の字の「さんづくり」の部分にお花や蝶々を描く、とか、「やなせたかし」と書く場合、「し」を「へのへのもへじ」にする、とか、やり方は千差万別、十人十色です。自分の個性を最も活かせる方法を選びましょう。「ギリギリ」です。
さて、以上のような無効票投票をおこなった後、監視者に会釈して退出します。帰りに「ご苦労様でした」などと、声を掛けられる場合もありますので、こわばった笑顔を準備しておきましょう。トランプ氏が悦に入った際に踊るダンスをしても喜ばれます。そして帰り道、これが大切なのですが、心の中で飯田久彦の『ルイジアナ・ママ』を歌いましょう(声に出してはいけません!)。あの“本場仕込風乱調日本語”で「アノコワ、ルイジアナママンナ、ヤッテキタノワニオーリンナ、キャミワキンイロメワアオクンナ……マッハ、ルイジアナママンナ、ロニオリ……」と歌いましょう。投票を終えた満足感、大人の責任を果たした安堵感、祭りの後の一抹の寂しさが込み上げてきます。
いかがでしたか。皆さんもきちんとした投票行動をしてください。つまり、上記を参考に無効票を投じましょうということです。候補者の誰それを当選(または落選)させよう、とか、選挙なんて意味ねえよと投票に行かない、とか、ダメですよ。きちんと投票して選挙自体を無効にするのが唯一無二の抗議の意志表示です。無効票99%を目標に、おこがましくも立候補し、たかが代議員以上の権力を奪取しようとする者たちを追い込みましょう。ルイジアナ・ママンナ共和国樹立のために。いや、その時が来れば、それはルイジアナ・ママンナ天国です。いやいや、それは故・清水崑を首班とするかっぱ天国でもいいのです。いまの政治家に比べたら、崑ちゃんが政治したほうがましだよなー。狐と酒酌み交わすとか、夢幻的。俺たちの儚い夢幻の世界に土足で入ってくるような真似はしないでくれよ。本当に無粋だぜ、政治家ってのは。「日本、死ね!」じゃねえよ、「政治家全員、◯◯!」だよ。覚えておけよ、末代までの長い付き合いになるぜ。早く選挙に行きたいなー!
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