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理知的驚きとプライド。

 驚きは瞳孔を開かせ、目を点にさせる。
 心臓が縮む思いになることもある。
 
 飼い猫が他所から借りてきた猫と対面したとき、目を点にした。猫を見るのは初めてだとでもいうような顔で、借りてきた他所の猫を前に瞼を見開きなまこを点にし顎を引いて止まっている。
 興味深げに見入るようなことも、逃げ腰であとずさるようなこともなかった。ただ我を失い、呆然と(立ちづくすならぬ)座りづくすだけだった。
 彼の記憶に同族の顔はなかったのだろう。その表情は雄弁で「なにこのひと?」と問いかけていた。「人間社会にふさわしくない異様な生き物に、人間のわたしがどのように対峙すればいいの?」と語っていた。
 こらこら君は猫だから、と説いても猫の耳にも念仏。ただでさえ人の言うことを聞かない天邪鬼なのに、このときは猫のくせに聞かざるに徹し、動けざること石の如し、と化した。
 
 驚きには種類があって、物理的衝撃が引き起こす恐怖がらみの本能刺激型と、理知的回路が混乱して起こる理論破綻型とがある。
 猫は通常背後から「わっ」と声をかければ、どきっ、と反応して一目散にかけ出すものだが、理知的機能が十全に機能している状態だと、本能が働く前に頭脳が演算をはじめてしまって、逃げ出す足を止めてしまう。いかに頭脳を駆使しようとも、猫の脳はそれほど高性能ではないから計算に時間がかかる。だがいくら計算しても解答にいたらずショートしてしまうというわけ。
 
 うちの猫は、ほかの猫を連れてきても同じ反応をする。我が身を人と信じ、「このひとだれ?」と投げかける。疑わざること堂とした巌の如し。
 
 それも猫特有の高いプライドのなせるわざ? そこのところはばっちり猫そのものなんだけどね。

【理論破綻型の驚きは、またの名を『鳩が豆鉄砲を喰らったような顔』型と表現する、とか、しないとか】

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