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人生だねえ、楽しもうと思うと雨が降る。

 お楽しみの直前に急な雨が降ろうとも、しょげてはいられない。心が弱いと、甘く見られる。
 いろんな話を聞くにつけ、人の多くは自分がいちばん不幸だと考えてる節がある。でしょ? そんな自称不幸者の一人や二人、周囲にいるでしょう? じゃりン子チエちゃんほど人生を達観していりゃ「うちは世界一不幸な子や」と嘆かれても、その逞しさに逆に笑えるけど、暗い顔して溜息漏らすしょぼくれ者を相手にすると、沈下を繰り返す踏んだり蹴ったりの彼の人生、不幸の渦潮、そんなのに巻き込まれちまった日にゃあ、人生お先真っ暗闇、不幸が呪いに姿を変えて、スイッチ切ったはずの画面から這いつくばって出てきちゃう、感染しちゃう、で、ジ・エンド。反面教師は、世界のあちこちにはびこっている。だから共倒れてしまうその前に、さわらぬ神に祟りなし、はいそこまでよ、おさらばよ、と早々に暗澹舞台から立ち退かせてもらうって寸法なのよ。
 知ってる? 不幸は不幸を呼ぶんだよ。そして人は不幸には呼ばれたくない生き物なんだ。だから、雨に降られても笑い飛ばせるくらいにおおらか、朗らかでいかないと。だあれも相手にしてくれなくなる。

 見習いたい先人、いるよ。寅さん、ハマちゃんあたりがど真ん中。人生誰にとってもイバラの道、その中でも彼らは特別へこんでて、社会人としては地盤沈下レベルだけれども、あくせくもがくことも、藁にすがるような真似もせず、浮かびはしないが高楊枝、明るく軽い勢いで人生乗り切ってしまえと突っ走るお気楽根性、我が道、行く道、来る者拒まず、だけど行く先々で拒まれて、それでもめげないメンタル世界のダイハード、畏敬の念の大権化。

 さあ、夏休みもいよいよラストスパート。お盆のピークに我慢して、混まない通勤電車にゆったり揺られてがらんどうのオフィスに出勤、そんなご奉公を経て得た遅めの夏休み、自分へのご褒美として最大限の賛辞を送らなきゃ。
 てなわけで、やっと休暇に突入だ、と喜んだのも束の間。雨。あらら。

「台風に直撃された今年のお盆休みは散々だったよ」と同僚がこぼしていたのが先々週。ぼやきを拾って「お気の毒に」と返していたのに、肩を落としたあの同僚、やつはしっかり明日の我が身だったのねん。

 ま、こんな年もあるさ。予定では「これから夏休みかよ」と羨望の眼差しを一身に受けての夏季休暇だったはずなのに、これじゃ誰にも羨ましがられない、雨に流される寸前の涙に咽ぶ同情の種。

 仕方ない。明日も雨なら屋外行事は水に流して白紙に戻し、映画にでも行って帰りにうまいラーメンでも食ってくるか。嘆かず、投げやりにならず、そうした丈夫な精神を私は持ちたく、日々精進。なんだか特別な休みとはほど遠く普段使いの時間になりそうだけど、雨降り続けばしょうがない。雨なら雨なりの休暇を最善を尽くして過ごすことといたしましょう。

 そういや小学生時代の同じ時期、山積み手付かず宿題に顔を青くしていたっけさ。勉強部屋に閉じ籠り、徹夜で仕上げにゃ終わらん課題に気を揉み、手を焼いて。ああいう追い詰められた状況の下ではなぜか澄み渡る青空が不用意に手招きしてくるんだったっけ。

 人生の展開は、いつだって予期せぬ方向に転がっていく。それって、理想が高く叶わぬ夢を見てるせい? それとも空から人類を見守る神様の悪戯? 試練もいいけど、たまにはいい目を見せてくれてもいいんじゃない? これでは日本一不幸な男になっちまう。
 あれ? 偉そうなこと言ったって、結局はしょげてるんじゃん。
 
 気を取り直して。
 猛暑がひと段落したら、秋の行楽シーズンにリベンジすることといたしましょ。

【いいことしようと予定を立てりゃ、いっつも運命の悪戯が降り注ぐ。
(「だから家でゴロゴロしてようって進言したのに」猫)】


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