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春の風は嫌いじゃない。

 春の風は嫌いじゃない。艶かしさに惹かれ引かれて、チラリ素肌の襟元から、いやらしくも大胆に、伸ばしたその手で乳房を掴みにくるけれど、強く握られるのにはご遠慮いただき、あたたかく包んでよと胸のうちで囁いて。足跡に託す女の残り香、仕掛けた罠にまんまとハマる男の単純、嫌いじゃない。

「オニさんこちら。わたしのほうへ」

 春は鬼。神出鬼没の鬼子母神。サクラ咲かせるくせに自ら散らす天邪鬼。

 春の風は嫌いじゃない。穏やかで、春嵐で、気まぐれで激しく、色香に満ちて、わたしそのもので。春の風は嫌いじゃない。

【女の香に惹かせて引いて】

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