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欲張り夏休み。

 盆を避けて夏休みを取れるなら、早めに取る派? それとも遅取り派?

 そんな質問をされちゃ困る。気持ちは圧倒的に前者なのだが。なぜなら、鮮度の高いうちの思い出作りのほうが、あとになって清々しく残るから。刺身だって、豆腐だって、恋だって、新鮮なうちが花。花は盛りに向かって咲くのを愛でるのが心の元気の原動力。
 だけど欲張りオイラは考えた。もともとが美味しいものならあとに取っておく派なんだよね。みんなが「楽しかったぁ」と夢から覚めて現実に戻ってくるころ、誘惑の銀河鉄道に乗り込むみたいにして、羨望の視線をぎんぎんに受けながらあくせく社会をあとにする。「へへん」てなもんである。猛暑に再突入した働きバチ横目に涼しい顔してバケーション、くぅ〜、想像しただけでたまらない。

 だけど、ふたつは一度に欲張れない。欲張りオイラだからどっちも欲張ってしまいたいけど、許されない。
 誰だ? そんな決まりを作ったヤツは?

 先進諸国は大人になっても子どものころの夏休みを再現できているじゃないの。なのにこの国ときたら。「働きすぎ」と言われて幾年月、未だ超過勤務と格闘してる。『釣りバカ日誌』のハマちゃんじゃないけれど、あんな生き方素敵じゃないの、社会的名誉と引き換えに、人生の夏休みを棒にふるなんて。
 思いは、ひゅるひゅる上がる夏の花火、されど大輪咲かせずに終わる不発弾。会社の顔に戻ってしまえば「それが常識」と、本音を奥歯で噛み砕く自分がいる。

 夏休みを後半に取っておけば、今、こんな悔しい思いをしなくて済んだんだろうな、とつくづく思う。世はこれからが本番だって騒いでいるのに、早まったことをしてしまったばっかりに、呆然と思い出となった今年の夏休み写真に見入っては、しんみりしみじみ、これから夢へ向かうプラットホーム上の人々を(会社の)社窓から見送ることになる。

 カムバック、夏休み!

 そういや人は喉元過ぎれば熱さ忘れる生き物なんだっけ。記録破りの猛暑が続く今年の夏、管理職の面々も熱波にやられて記憶のネジが緩んでいるかもしれぬ、忘れたころにもう一度、厚顔をもって休暇の申請、もいちど出してみようかな。

 うまくいけば、オイラは第二のハマちゃんになる。

【夏本番が始まる前に終わってしまった今年の夏休みの1葉。寒霞渓 小豆島】

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