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【二輪の景色-8】行ってきます。

 バイクを楽しめるかどうかは、危機感に胸躍るかどうかで決まるような気がする。危機感と言うと大袈裟だけど、緊張感を主軸にした全方位神経行きわたらせ系みたいな小覚悟のようなもん。高速移動を生身の体で行うわけだし、地面に立っている感覚で止まると転ぶし、長旅で宿が決まっていない夕暮れ過ぎに走っていても車と違って車中泊はできないし。何かと思いを巡らせ続けないといけない手間と気遣いを要する乗り物なのだ。先手を打ち続けておかないと危うくなるし、身に危険が迫ってくる瞬間も数知れず、だから、いつ何時も気を抜けない。そんな緊張感を遊べるなら、バイクはうってつけなツールだ。

 勘違いしていけないのは、バイクは自転車以上車未満の乗り物ではないってこと。それが証に、自転車や車では味わえない多摩テックばりの、遊園地で遊ぶ高揚の乗り物感の度合いがずば抜けて高い。どれとどれの中間点、などという中途半端さは微塵もなく、独自カラーで、しかも鋭利にとんがっている。先端に触れると痛い。刃先に肌を当てて引くとスパッと切れるくらいに研ぎ澄まされている。
 四輪にも近い感覚のものがあって、ゴーカートがそれに当たる。ただし、心身一体感という点においてだけ。実は、決定的な違いがある。遠心力の味わい方が圧倒的におもしろい。四輪はコーナーを攻めた時に横Gに耐えなければならないけど、バイクは重力を縦に耐える。真下というか、軸足の延長線上の底のほうで耐える。踏ん張るというか、重力を押さえ込む感覚。自転車の曲がる感覚とはかかるGが爆発的に違うから、迫力が桁違い。こんなに重力に押さえつけられちゃ身長が縮んじゃう、なんてとこまでいかないけれど、迫力の縦G。
 縮んでばかりじゃいられないから、縮んだら伸びてまた縮み、伸びて、の繰り返し。このようにして、リズムに乗って走らせていくのがバイクなんだ。

 そんなこんなのバイク趣味、啓蒙活動はいっさいいたしません。これまでも、これからも。人に勧められるほど安全な乗り物じゃないからね。それをわかってこの世界に飛び込んできた人とだけ、語る、走る。

 なぜこのタイミングでこんな話をするのか、ですって? それはね、梅雨前の晴れた平日、仕事をやりくりして、やりくりしてもらって、何台かで走りに行くから。週末の渋滞はまっぴらごめん。で、有給とって、へそ曲がり旅。目的地に向かう旅じゃない。走る方面を決めて、走ってくることを目的とする旅。年に一度か二度のお楽しみ、自粛が明けたことで再開する魂のフェスティバルーー別に略す必要はないけれど、名付けて『タマフェス』。スズメが起き出す早朝に、こっそり寝床を抜け出して、行ってきます!

【久しぶりだけど、今回の旅もきっと気持ちいい】


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