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冬を追う。

 追いかけても捕まえられなかったあの人みたいに、君はすんでのところで身を躱して逃げていく。思い描いたオアシスは、遠くに見えても近づくと逃げていく、そんな蜃気楼にも似た存在。肩に手をかけられる! と胸高ならせても、手に実感は残らず、結果は肩透かし。暖簾を腕で押すのと同じで、感覚は残滓を手にしているのに君を捕まえるにはいたっていない。
 
 付かず離れず、君はもらいながら距離を置く。
 
 君はぶら下げられたニンジンで、僕は馬だ。駆けても駆けても、胴体にくくりつけられた竿の先のニンジンに食いつくことができない。わかっちゃいるが、今日もまたものは試しと食らいつく。ぱくっとやるが、前回に引き続き、そして空振り。
 
 でもさ、僕は知っている。昨日より今日の距離は畳の目ほど縮まっている。明日また君との間合いはもう少し縮まるだろう。
 
 このようにして冬の陽はじわりじわりと短くなっていく。捕えられない君が終わるまで。

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