見出し画像

野良仔猫をめぐる紛争想起。

 ボランティアの草の根運動が功を奏してか、だいぶ沈静化されてきた住宅地における野良猫騒動。かつては産めや増やせの大騒ぎ、ごみ収集日にはカラスとの餌争奪戦に公道は戦火のあとの大惨事、糞尿爆弾に、夜毎喧嘩のソニックガン攻撃、一網打尽作戦は法的庇護で反故にされ、やりたい放題し放題の野放し無法地帯に近隣住民、怒りの抜剣、それでも動物愛護精神に阻止されて、我が物顔の野良を横目に人ほぞを噛む。

 あれは在りし日の夢、かと懐かしんでいたらさもあらなん。なんとご近所の雌野良猫が飼い猫の雄と密会を繰り返し、産んでしまった野良仔猫5匹。ほっておくのはかわいそと、血統書付き猫飼いのおばさんが外猫として餌をやりだした。おまけにダンボールでこしらえた屋根あり布団付きの2階建ハウスを軒下に用意しちゃってる。
 仔猫がおもちゃみたいに飛んだり跳ねたりしているうちはまだよかった。それが成猫に近づくにつれ、ヤンチャに悪意が滲み出て、派手にゴミ袋を食い散らかすは、おっきなのを垂れ流すは、人んちの物を弄んでは遊ぶと荒らすをごっちゃにするようになった。かつての戦国絵巻が平和な町に戻ってきてしまったんだわ。

 ある日の生ゴミ収集日、猫嫌いのお向かいさんちのゴミ袋が食い散らかされた。まずいことに、野良、猫嫌いのお向かいさんちの車の下で、ご丁寧に全開の散らかし放題、ゴミ爆弾大爆裂。ゴミ収集車がやってくるも、まとめたはずのゴミが自分ちの車の下で大風呂敷おっ広げ大惨事になっている。これでは収集してもらえるはずのゴミを持って行ってもらえない。

 これには猫嫌いのお向かいさんちもブチギレた。
 何しようねん、このバカ猫たちがあ。武田鉄矢ばりに心頭した怒りを感情の噴出するままにぶちまけた。水道管にホース繋いで、仔猫の2階建簡易な軒下段ボールハウスに水ぶちまけた。

「あら、猫ちゃん可哀想。これじゃ、おうちに入れない」
 ご近所事情を知らないゴミ収集車のおばちゃんが、のどかな田園風景みたいに他人事でさらり涼しい顔で言う。

 うむう、そんなことじゃない。散らかされたゴミを拾うこっちの身にもなっとくれ! 猫嫌いのお向かいさんちの心の声が、周囲の空気を震わせた。

 猫好きの野良放任と、猫嫌いの野良迷惑論の戦火の幕が切って落とされることになる。今はまだ火種は猫嫌いのお向かいさんちに留まっているけれど、やがて枯れ枝巻き込んで大きな火柱となる。きっと。だって、にっくき野良の所業とはいえ、ひとんちのダンボールハウスに水かけちゃったんだもの。それはそれで迷惑返しの怒りの連鎖を生むだわさ。憤怒の多産に拍車をかけちまうだわさ。

 発端は、雌野良猫を孕ませたどこぞの▼▼▼▼飼い猫を飼う飼い主の監督不行き届きなれど、もはや犯人探しなんて悠長なことは言ってられず、事態は急を要している。まことの緊急事態に、その瀬戸際に立っている。

 目を吊り上げ大騒動を引き起こす諸悪の根源を制圧するか、目を閉じ猫の無邪気が治るまで(年を取るまで)「忍」を決め込むか。
 実力行使は町に平和を取り戻すという夢を抱かせるが、猫好きを悲しませる。追いやられた猫に同情し、追いやった者を恨むに違いあるまい。怒りの連鎖の引き金を引くことになっちまう。

 かたや忍耐戦略は平和的だが解決まで時間がかかる分、苦痛も長引くし、子が育てばまたまた孕む危険を増幅させていく。ネズミじゃないのにネズミ算式に野良猫が大量発生してくのだけはまっぴらごめん。

 物語はここからが本番の様相だ。
 さて、これからの展開はいかに? 話はここからがスリリング。たぶん。傍観者はただ二者の出方を静観するばかりなり。

 続きは事が進展した時にまた。
 続編を待て。と言いたいところだが、講談師よろしく、物語は期待を膨らませるだけ膨らませたところで切ってこそ、妄想の余韻という楽しみを醸成させる。続きは想像の自由に委ねさせていただきまする。
 
《完》


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?