見出し画像

翼をください。

 今でもあの時の両翼を我が身から引き出せるだろうか。世間の荒波が、海に至る長江により石の角を丸めていくように、生えていたはずの翼をもどこかで摩耗させてはこなかっただろうか。

 鳥は、セミは、トンボは、ハチは、空を舞うために翼を授けられた。それと同じように地に降りたった天使は、いつでも地獄▼▼から逃げ出せるようにと翼を与えられている。
 なのに。
 その翼を、今でも格納した背中から天に広げることはできるだろうか。

 人に化身した天使は社会の一般常識という網に絡め取られ、大空に舞っていた過去を消された。情報化社会に現れた電子頭脳がデリートと刻まれたキーひとつで天命をいとも容易くゴミ箱に放り込む。元来、飛べる能力を持ち合わせているというのに、翼を備えていること自体を覚えていないのだ。

 歩まなければ【滑走路】は見えてこない。踏み固めなければ、滑走路として使えない。
 
 歩を怠ってはいけない。歩まなければ、その歩を速めていかなければ、充分な助走が得られない。

 広げるべき翼を忘れていないだろうか。これは、縛られる人生からのエスケープなんかじゃない。元いた空域への里帰り。

【翼をください】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?