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アイスが溶ける前に

私はアイスが苦手です。正確にはアイスが苦手、ではなく「アイスを食べるのが苦手」だったりします。

一つは知覚過敏だったから。だったからと言うのは少し昔のお話。今はもう普通にアイスをかじることだって出来ます。ですが20代の時はそれが出来ませんでした。

私は歯磨きをしっかりと教えられてこなかった家庭に育ちました。私の父は60代。もう半分以上の歯が入れ歯になっています。それを聞くと子どももそこまで熱心に歯磨きを教えられてなかったんだろうなぁというのがわかるかと思います。
大人になっても教えてくれる人は現れず。ですが歯を大切にしていないと困ったことが起きるのも確か。それが知覚過敏の症状でした。
冷たいものが染みる染みる…それは口の中がびりびりして口を閉じていられないくらい。アイスをかじるのではなく電気をかじっているかのような。思わず「あー!!」と叫んでしまうほど冷たいものが苦手でした。そのためアイスはもちろんかじることができず。ソフトクリームのように舐めるものでも口の中に溜まれば沁みてくる。美味しいものが大好きな私。真夏のアイスなんてうっとりするくらい美味しいのに。いつしかアイス自体を遠ざけるようになったのでした。

そんな私でしたが今は歯医者に通い知覚過敏も改善しました。もちろんアイスも思い切りかじることができるようになりました。ひんやりしたアイスが口の中に入ると「ふー」っとため息がでる美味しさを噛み締めています。
それでもなんだか口の中がむず痒い気持ちになるのは昔の名残がまだ残っているのでしょうか。まだ苦手意識は解け切っていないようです。

もう一つはアイスに集中できないから。アイスを食べると言う行為に集中できない自分がいます。

アイスを食べるときはたいていがのんびりしている時。休憩している時だったりします。そう、アイスを食べるにはゆったりとした気持ちと時間が必要なんです。
ですが私はアイスを食べようとすると何かやることを思い出す。『そう言えば子どもが階段の壁に落書きしていたな、消さなくては』とか『玄関の靴結構出ていたな、しまわなくては』とか、そんなことをよく思い出します。こんな時に思い出さなくてもいいのに…何が悲しいかな主婦の性なんでしょうか。のんびりしようとする時ほどそんなことを思い出してついついやってしまうのです。

やっと辿り着いたアイス。一口食べると頭の中がすーっと。爽やかな風が通り抜けていて少しの間何にも考えなくてもいいんだ、という気持ちにさせてくれます。
そのまま食べていればいいものを食べ進めていくうちに私の頭の中はアイスの話でいっぱいになります。『この前食べたアイスよりこっちのアイスの方が好きだな。そう言えばこの前アイスを買った時はこんなことがあったな。そう言えばこのアイスが好きだと言っていたあの人は元気でやっているんだろうか…』アイスを食べているのか考え事をしているのか。自分でもよくわからなくなってしまい、アイスをのんびりゆったりとした気持ちで味わえなくなります。アイスを味わえば良いのにどうしても違うことが頭の中に浮かんできてしまう。なのでこの時間が少し苦手だなと感じるようにもなってしまいました。

私はアイスを食べるのが苦手。その結果がこのエッセイです。アイスをゆったり味わえる環境なのにも関わらず、私はアイスもそこそこに気づけば文章の前に座っていました。アイスに集中できなかった代償は大きく溶けたアイスが隣に座っている。そしてそんなアイスともクリームとも牛乳とも言えない甘い液体を流し込む。冷たくはないから私の心には優しんだけどちょっと残念なきもちと共に。いつかはゆっくりと味わいたい、アイス。どうか溶けないうちにその美味しさをたっぷりとゆったりと感じられる日が訪れますように。

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