ハリポタ6を再見して

先日の記事に引き続いて、第6作『ハリーポッターと謎のプリンス』を再見しました。
もう5周以上見ているので、さすがにベタに没入…というよりは、わりと距離をとって、ツッコミながら(もちろん楽しく)見ました。
前回、作り手(著者、訳者、監督陣…)に対して、ちょっとさすがに子どもを舐めてないか?という疑念を持ったと書きましたが、今作でもそれは感じました。それは例えばまずタイトルによく表れています。そう、「half-blood prince」は「謎のプリンス」でいいのか問題です。もちろん色んな大人たちの会議や葛藤があったのでしょうけど、どうも「半純血…うーん、わかりにくいし、ま、「謎の」でいいっしょ。誰もそんな疑問に思わないよ」という妥協の声が聞こえてきてしまうのです。ハリポタには全編を通してこの「ま、いいっしょ」感がある。お金をかけて妥協ない製作をしているとは思いますが、そういう部分とは別の、作者の頭の中の部分において。
ファンタジーものである本作ですが、いかにも作者の想像力が子供っぽいなぁと思った箇所がいくつかあります。
本作ではマルフォイがよく「選ばれし者」(chosen one)というセリフを言います。これ、なんか聞いたことあるなと思ったら、『ロードオブザリング』シリーズでもよく出てくるフレーズです。なんというか、カッコいいけどあまり内実のない言葉だと思いませんか(笑)
小学生くらいの男の子ってよく「最強の魔神」とかいうことを思いついたり言ったりしますが(それこそ遊戯王の「ブラックマジシャン」とか「アルティメットドラゴン」とかの想像力)、まさにそんな感じというか。
『不死鳥の騎士団』でスネイプが真実薬(自白させる薬)の説明をする時に、「この薬があればヴォルデモートも闇の秘密を三滴で明かすだろう」というような意味のことを言っていましたが、おい、その時の「闇の秘密」って実際何だよ、と(笑)ただ響きがカッコいいだけやろって。それで作品すべてを否定したいわけではなく、むしろ一旦そう思ってしまうと、登場人物が皆なんだか可愛く見えてくるっていう効能を勧めてます。
ちなみに『不死鳥』でベラトリックスがシリウスを殺したあと、怒ったハリーが彼女に初めて磔の呪文(クルーシオ)を使うんだけど、その時の呪文の光線の色が赤で、このわかりやすさは完全に『スターウォーズ』のライトセーバーの色じゃん、と思いました(笑)。味方は緑で敵は赤というあの視覚的わかりやすさ、嫌いじゃありません。
他に冷静にツッコんでみると、呪文ってたまに唱えなくても出る場合がありますが、(特に悪いやつとか偉い先生とかが使うとき)あれ、唱えなくていいなら唱えない方が圧倒的にいいのでは!
一番変に感じたのが、冒頭スラグホーン先生の家をダンブルドアが杖の一振りで片付けるところ。あれってもしダンブルが「片付けろ」なんて唱えてたらカッコ悪い(そもそもそれに値するラテン語みたいなのがない?)っていうのもありますが、あんな部屋中のものを一気に片付けてしまえる魔法って何だよって思いました。
まさに「言語」というものそれ自体が、そういう、雑多なものをひとまとめにする機能を持っています(例えば「動物」なんていう動物はいないのに、その言葉で全てくくれてしまう)。あのお片付け魔法自体が、何も唱えてはいないけど「言語」そのもののメタファーなのではないか。つまり、魔法と言いつつめちゃめちゃ言語に依拠した想像力なのではないか。
色々言ってしまいましたので話題を変えると、スネイプ先生の演技は素晴らしいですね。どこがかっこいいって、「obviously」(明らかに)とか「 indeed」(確かに)とか、いちいち一言で答えるところだと思います。
彼ら脇役陣が素晴らしいぶん、トム・リドル(ヴォルデモート)青年期の俳優はちょっとひどい。ひどいというか、まあ彼らと比較して実力不足だからしょうがないとは思いますが、あの「顔で演技しまっせー」みたいなやる気満々な感じがなぁ。顔をまったく動かさずに演技するスネイプを見習ってほしかったです(大事な役どころなぶん)。
最後に、これは『死の秘宝パート1』の内容ですが、この作品で死ぬムーディ、ヘドウィグ、ドビーは、作者の「余った手札捨て」ではないでしょうか。つまり、最終決戦を間近に控え、ちょっと手札(キャラクター)多いぞ、よし少しいらないのを削っとくか、という…。私は以前から、殺されるキャラクターの尊厳みたいなものを考えています。具体的にいうと、いわゆる「死亡フラグ」というやつ(シリウスが急にハリーに優しく身の上話をするようになったなと思ったら殺される、というあれ)、もうちょっとなんとかならないのかなと思うんです。これはピータージャクソン監督の映画でも『キングダム』でも、色んな局面で感じていますから一概に誰々のせいとは言えませんが、なんかもうちょっと、殺される側にも倫理があっていいのでは、と思います。キャラクターはただの手駒なのでしょうか。

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