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思い出のパンケーキ 〜お菓子の物語5'へ〜

あれは、始業式の午後

エプロンの生地を買いに、
母とデパートを訪れた

エプロンコーナーで
同じクラスの女の子とお母さんに会った

上のレストランでお茶でもする?
母の提案で4人でお茶をすることになった

屋上遊園地のひとつ下の階に
街を見下ろせる、レトロ喫茶を広くした感じの
ファミリーレストランがあった

格子ガラスの木の扉を開けると
オレンジの光に包まれた店内があらわれる

大きな窓ガラスから差し込む外の光は白く、
対照的だった

私たち子どものメニューは、
店に入った瞬間から決まっていた

『パンケーキ!』

4人でおしゃべりしていると
バターがのったパンケーキと
オレンジジュースが目の前に並べられる

お店の人が、これでもかと言わんばかりに
メープルシロップをたっぷりとかけてくれた

甘い香りがデーブルに広がる

『いただきます!』

バターを少し塗る度に
メープルがポトリポトリと
2枚目のホットケーキに落ちていく

ふんわりとした
きれいな茶色をフォークでおさえ、
少しずつ切って口に運ぶ

濃厚なバターの香りと
メープルが甘く染みたパンケーキが
ふんわりと、口の中を満たしていく

ニコニコと、
何も言わずに味わう私たちを
母たちは微笑ましく眺めていた

もう今はないあのレストラン
あのパンケーキにも出会えていない

世の中にはたくさんパンケーキが
溢れているのに

温かい思い出の彩が
あの味をこえさせてくれないのか

そんなことを思いながら
あの味に会える日を心待ちにしている

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ともかさん、ありがとうございました🫶
https://note.com/mokasanhamamatsu/n/n605cc6c7697f