油絵
真っ白いキャンバスに
書き殴ってきた絵の物語が
自分の真実のように思えていた
後ろから入るアドバイスや修正に
いつの間にか、
私という表現はかすんでいく
それでも、
目の前の絵が正しいと信じている
愚かだ
絵に正しさなどないのに
人から賞賛される技術ばかりを使う
それに気がついた時、
私はこの絵を
混沌にしてみたいと思った
誰にも褒められようのない
その絵は、なぜか私に安心を与えた
何を描いても良いと許された気がした
剥離剤をつけて
ナイフでかき集め
上から剥いでいく
重ねた色の背後にあった
価値観までも全て剥がしていく
絵の正しさ、人生の正しさや優劣は
幻想だ
ましてや、押し付けられた正しさの色を
表現できない自分に苦しむのなんて
もう、まっぴらだ
だから、2つのキャンバスを用意した
1枚は、求められる絵を描くもの
もう1枚は、心のままに絵を描くもの
古いキャンバスの使い回しだ
この2つの絵の世界が私の真実であり、
そしてまた、私と世界が生み出した
幻想の絵たちなのだと
今ならば、もう分かる
今は不思議と、
この虚構の壮大な物語を
いとしいと思うことができる
絵 高槻ほたち様