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すれちがいの物語、終幕まで

あなたは言った、あの教室で
私は廊下で聞いてしまった
「俺はあいつが好きなんだ」

あなたは言った、すれ違う廊下で
「あれ美味かった、ありがとな」

あなたは言った、あの校舎の裏
雨宿りする私に傘を差し出し
「お前が使えよ」

あなたは言った、あの2人きりの放課後に
ホワイトデーのお返しを持って
「俺たち付き合おうか」

あなたは言った、仕組まれたペア
一緒になんて仕事にならない
「お前がしてほしいならやるよ」

あなたは言った、あのベランダで
いつもからかうアイツともめていた
「これ以上俺らに余計なことするなよ」

あなたは言った、あの帰り道
やきもちだらけの私、このままでいいの?と聞く
「何があってもお前を嫌いにならないから」

あなたは言った、あの美しい蝉のなく場所で
全ての時間が止まってしまった
「おまえを愛する自信がなくなった」

あなたは言った、あの校舎の影
想いに決着をつけようとする私に
「もう元には戻れない」

あなたは言った、あの成人の夜
帰りの夜道でかかった電話
「今から一緒に飲めないか」

あなたは言った、偶然出会った知らない街で
「あの日おまえの後ろ姿をみかけて、
 後悔していた」

あなたは言った、あの寒空の下
一緒には行けないという私に
「どうして」

私は言った
「私が好きだったのは、あの頃のあなただから」

すれ違いだらけの2人だった
訪れるチャンスはいつも、交差してばかり

私はこれから先も
ふとあの頃のことを思い出すのだろう

特にこんな蒸し暑い、蝉のなく日には

長い時はたったけれど、
傷の痛みも
まだ少しだけここにある

長い長い物語だったね
あなたはもう、あの物語の半分も
覚えてはいないだろう

そうやって私たちのお話は消えていくんだね

これからは、お互いに楽しく元気で生きていよう
今の私たちはきっと、もうそれで十分だ