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これは、怪談ではないけれど

あれは、いつかの秋

通学路からみえる
山の中腹の神社

その森は暗く、陽が入らず
中が見えたことは一度もなかった

ただそこに何かある
それだけしか分からなかった

そもそも民家を通らなければ行けない、
そんな場所

昔、山城があったこの地域には
魔術が使えると知られた僧がいて、
城主に重用された後に抹殺された

ちょうどこの神社のあった辺りに
彼のために建てられた2番目の寺があったと
語り部の人に聞いた

なぜ今は神社なのか
よく分からないが..

補習の帰り、
どこかで肝試しをしようと
友達と相談していた

ちょうど、あの神社がそこにあった

そして、いつもは見かけない
神社の通り道にある家の人がいた

「すみません。ちょっとあこそまで
 登ってきてもいいですか?」

「どうしたの?
 あの神社、古いから気をつけてね」

参道らしき道はない
山道でもない
ただ落ち葉が敷かれた坂を歩く

「ねぇ、ほんとに行くの?」

友達がそう言った瞬間、
雨のような茶色い落ち葉が
いっせいに私たちに降りかかる

「大丈夫だよ」

好奇心か、
何かに惹かれるように
そのまま進んでいく

たどり着いたその神社は
思ったよりずっと古かった

長い間、
誰も足を踏み入れていないのだと
ひと目でわかるほど
蜘蛛の巣が張り巡らされ、
埃にまみれていた

通学路からはみえなかった拝殿の中を
天井にいくつか開いた穴が
照らし出していた

砂埃なのか、光は白く煙っていた

床にもあちこちに穴があき
生まれてはじめて見る荒屋

床を抜かないように
慎重に神様の方へ近づく

これが御神体?と思われる箱の前に
鬼の顔が置かれていた

天井からさす光に
神様ではなく、鬼が光っていた

神社の清浄な空間は
そこにはなかった

人が訪れなくなった場所というのは
全てこうなっていくのだろうか

怖いとも、神聖とも違う
静かに忘れ去られた寂しい場所だった

どちらにせよ、ここで肝試しは
洒落にならない

私たちの下見はあっけなく終わった

五百年ほどの
歴史を持つかもしれないその場所は、
人々から忘れ去られ
あの山で朽ちていくのだろか


画像 : 怖いお話ネットさん