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「MOTHER」のゲーム音楽がきっかけで星野源が好きになったという話

2021年1月27日、ムーンライダーズのボーカリストでもある鈴木慶一氏のアルバム「MOTHER MUSIC REVISITED」が発売された。

本作は1989年に任天堂から発売されたゲームソフト「MOTHER」の中で使用された楽曲の数々を、鈴木氏の音楽家生活50周年を記念してセルフカバーした音源を収録したアルバム。2枚組として発売された"DELUXE盤"には、ゲームのオリジナル音源が収録されているという、「MOTHER」ファンであれば聞き逃すことができない作品。"REVISITED"なんてタイトルの付け方も絶妙で、喜んで再びいざなわれてしまいたい。

私はリアルタイムではないものの「MOTHER」シリーズは1プレイヤーとして楽しんだゲームソフトの1つであり、続編として発表された「MOTHER2」「MOTHER3」も含め、糸井重里氏が手掛けたゲームの展開に虜になった。

実は私は星野源が好きで、振り返ってみればまだ彼がソロで音楽を始める前の2006年から彼の音楽を追いかけ続けていた。そのきっかけの1つとして「MOTHER」の音楽「エイト・メロディーズ (EIGHT MELODIES)」という曲が深く関係するという話をしてみたい。

「MOTHER」シリーズに私がハマったのが15年前頃なので、「MOTHER 2」のメインキャラクターであるネスが「大乱闘スマッシュブラザーズ」に登場した頃には、まだ「MOTHER」の世界観には触れていなかった。

"名作なんだよね"という噂をさんざん聞いていてハードルが上がっている中だったにもかかわらず、実際にプレイしてみたら軽くハードルを超えてくるという、私の人生の記憶にも残るゲームソフトだった。

ちょうど同じころに放送されていたドラマアキハバラ@DEEPに役者として出演していた星野源を知る。

このドラマ、深夜にごく一部の放送局でしかオンエアされていなかった作品だが、まだ本格的にブレイクする前の風間俊介や生田斗真、バナナマンといったメンバーが出演していたこともあり、放送が終わったのちに注目を集めた作品のひとつ。今でも毎年、バナナマン日村の誕生日に星野源がバースデーソングを贈るなど交流が続いているのも、このドラマがきっかけ。

別々のきっかけで知った「MOTHER」と星野源を結び付けた曲が「エイト・メロディーズ (EIGHT MELODIES)」だった。彼が当時リーダーを務めていたインストバンド・SAKEROCKがこの曲をカバーした。原曲の良さをしっかり生かしながらも、バンドサウンドにマッチするようなアレンジも素晴らしい作品に仕上がっている。

2006年11月にSAKEROCKが発売したアルバム「songs of instrumental」にこの曲が収録されたことをきっかけに、初めて彼らのアルバムを買うことになるのだが、このアルバムによって彼らの音楽にも魅了されることになった。

1曲目に収録されたのが「インストバンドの唄」。この曲に驚かされたのが、インストバンドなのにいきなり歌詞のある曲だったことと、その歌詞の内容。永積タカシ (ハナレグミ) をゲストボーカルに迎えたこの曲は、こんな風に歌いだした。

手足のない人や 目と耳が動かない人は どんな風に 踊ればいいの

インストバンドが歌詞を投げかけてきた、という想定外の展開に加えて、私たちが当たり前のように音楽を感じて体を動かすことに対して、それができない人たちのことに言及した歌詞の内容に衝撃を受けたことを覚えている。この歌詞を綴ったのも星野源であり、このアルバムが彼の表現に興味を持つきっかけとなった。

以降の星野源のソロとしての活躍については、誰しもが知るところだと思うし、ソロとして発表した楽曲にも彼らしさが色濃く表れているので、今でも大好きな表現者のひとりである。

ソロとしての活動が充実していく一方で、メンバーの脱退なども重なりバンドの活動が停滞していくことになる。結果として、バンドは解散を選択することとなったが、決してバンドを自然消滅させるのではなく、脱退したメンバーを呼び戻してアルバムを制作、ラストライブを開催することで幕を閉じるという粋な最後を選んでくれた。

2015.06.02 SAKEROCK 解散

私もこの日、両国国技館で開催されたバンドの解散ライブの現場にいた。私が見た初めてのSAKEROCKにして、最後のSAKEROCK。

土俵を彷彿とさせる円形のステージを中心に、とても和やかな空気が広がっていて、本当にこれで解散なのかと思うほど楽しいライブだった。

ラストナンバー「SAYONARA」のイントロが聞こえてきたときには、ピアノの旋律に寂しさを感じずにはいられなかったのだが、後半の会場一体となったシンガロングが始まると楽しさも混在してきて、みんな泣き笑いのような表情で声を出していたように思う。

以前にNHK Eテレで「ミュージックポートレイト」という、出演者の人生の10曲を選ぶという番組があって、その中で"人生の最後に聴きたい曲"というお題が毎回出てきたのだが、私にとっての"人生の最後に聴きたい曲"は、この日からSAKEROCKの「SAYONARA」に決まって一度も揺らいでいない。紆余曲折を経て迎えた最後にふさわしいのは、こんな泣けて笑える曲なんだと思うから。

楽曲のカバーをきっかけにオリジナルの良さを再認識することもあれば、カバーした側の良さを新発見できることもある。私が「MOTHER」をプレイしていなければ、星野源の表現やインスト楽曲の魅力に気付けるのも遅くなっていたはず。

誰かが影響を受けた音楽にまた別の形で影響を受けられる、こんな音楽の繋がりを大切にしたい。そんな2006年から2015年にかけてのお話でした。

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