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マレーシア映画『タレンタイム』を観て。

仮設の映画館」で、マレーシア映画『タレンタイム~優しい歌』(監督:ヤスミン・アフマド/2009年)を観た。※オンラインで公開中(6月末まで)

「タレンタイム」とは、ある高校で催された音楽コンクールの名前。オーディションに合格した生徒たちが、「タレンタイム」最終選考にのぞむまでの数日間の青春ストーリー。

現実のマレーシアがそうであるように、登場する生徒たちの民族性や宗教観、家庭環境はさまざま。

たとえば、ハフィズはマレー系でイスラム教徒。唯一の家族である母は末期がんを患っている。メルーもマレー系イスラム教。おしゃべり好きの3人姉妹で、祖母はイギリス人。カーホウは中国系。裕福な家庭だが父との関係に悩んでいる。マヘシュはインド系のヒンズー教徒。手話で会話をする。

こんなふうに、それぞれ違った環境をもつため、ときに見えない壁が互いを隔て、悲しい事件も起こる。でも、それと同時に、宗教が違っていても恋はうまれ、家庭環境は異なっていても悲しみをわかちあうことができる。これは何もマレーシアというひとつの国に限ったことではなく、この世の中の現実であり、そして希望を感じさせてくれる作品だ。

ちなみに、物語の核になっている生徒たちが披露する歌は、先日の note で紹介したピート・テオがこの映画のために制作したもの。これがまたとってもすばらしく、何度見ても泣いてしまう、大好きな映画。


さて、マレーシアのことを知らなくても十分に楽しめる映画だけど、ここがマレーシアらしいな、とわたしが思うポイントを少々。

まず言語。この映画には、マレー語、タミル語、英語、中国語(広東語、北京語)の5つの言葉が使われている。どうしてこんなにたくさんの言語が1つの映画のなかで話されているかというと、多民族国家マレーシアの日常がこうだから。

さらに、よく耳をすませて聞いてみると、家庭ごとに話す言語が異なるだけでなく、同じ人物が話す相手やシチュエーションに合わせて、言語を巧みに使い分けているのが、とてもマレーシアらしい。つまりバイリンガルどころか、トリリンガル、いやそれ以上のマルチリンガルがマレーシア人の特徴。

たとえばメルー。家族内はマレー語だが、イギリス人の祖母が家に訪れてからは、家族みんな英語で会話。自作のポエムでも英語で披露している。

カーホウはハフィズとの会話はマレー語で、タン先生と交わす言葉は中国語(広東語)。アディバ先生は職員室での会話はマレー語と英語のミックス、タレンタイムの開会宣言は英語で行っている。

マヘシュの家族の会話もマレーシアらしい部分が満載。お母さんがタミル語でマヘシュに話しているなかに「pakai cantik baru」といったマレー語(マレーシアの公用語)が混じっていて、おじさんのマヘシュへの助言は英語で流暢に語られている。同じ会話のなかで、マレー語、英語、タミル語(または中国語)がミックスされているのは、マレーシアでよく見かける光景だ。

ちなみに、登場人物がどの言語を話しているかが大事なシーンには、日本語字幕にカッコ( < > << >>) がついている(たしかタミル語と中国語)ので注目を。


次に、メルーのお母さんがお手伝いさんのメイリンに点心を習うシーンも、あるある!と思った。実際、マレー系が華人系のお手伝いさんを雇うこと自体はあまり無いが、中国ルーツの点心を好むマレー系はとても多い。たとえば「パオ(包)」とよぶ、いろんな具を詰めた蒸したまんじゅうはおやつの定番だし、豚を使わない点心を提供しているレストランは民族問わずに人気だ。


最後にもうひとつ、マヘシュの手話について。

彼が話しているのはアメリカ手話。マレーシアには独自の手話はなくアメリカ手話を使用している。日本手話と違って、両手をダイナミックに動かし、感情豊かに表現するのがアメリカ手話の特徴で、ラストシーンにはその様子がよくいかされている。

そして、このラストシーン。日本語の字幕は出ていないが、な、な、なんと、現地で購入したDVDには英語字幕がバッチリ表記されていた。メルーの「talk too much」という答えから想像するに、たぶん彼女はマヘシュの手話をほぼ理解したのではないかな、とわたしは思っている。


あれこれ長く書いてしまったけど、言いたいことはただひとつ。とてもいい映画なので、この機会にぜひ観てね。(日本国内限定・6月30日21時までオンライン上映・視聴料1800円で24時間レンタル)。

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マレーシアで人気のおやつクエラピス kuih Lapis。もち米粉にココナッツミルクを加えて蒸したもっちり食感で、ういろうみたいなお菓子。しましまなのはカラーリングで、一層ずつ蒸す。おいしくて可愛い。

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