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ひとり美味しんぼ【浅草 弁天山美家古寿司】

日々の自分の頑張りを労うのは自分しかいない。

回転寿司も立ち食い素敵も大好きだけど、一年に一度は贅沢なお寿司屋さんに行きたい。
ポイントは自分の稼いだお金で、自分の好きな物を我慢せずに頂く事。

今年は浅草の弁天山美家古寿司へ。

創業慶応2年(1866年)の老舗、江戸前寿司。
キラキラ港区のお寿司も素敵だけど、やっぱり江戸前が粋で素敵だなと思う。
初代から受け継いだ伝統的な技法で丁寧に仕込みされたお寿司は、決して派手ではないけれども温かみを感じてほっこりさせられる。

漫画「美味しんぼ」をしっかり読んで予習をしてから伺った。

7巻 56話
私も毎日通って特別扱いして欲しい
106巻 983話
いつも思う。山岡は平社員なのに何でこんなお金あるんだ。



浅草をぎゅっと


25℃と、秋の訪れを感じる日曜日。
浅草駅には外国人だけでなく日本人も沢山いた。
中国系が多い銀座とは違い、浅草は欧米系の方々が多い。
日本の歴史が好きな外国人の方々には沢山日本の良い所を知って欲しいので何となく嬉しい。

一週間前に電話で予約をしたら「12時半から1席ならカウンターで取れますよ」と感じの良い対応をして頂き、ワクワクしながら訪れた。

昔々、デートで急に連れて行って貰った西麻布のお寿司屋さんでハンドクリームの香りを注意されて以来、お寿司屋さんに行くのは少し緊張してしまう。
(ちなみにその西麻布では、隣のマダムの香水の方がキツかったが、私達だけ個室に追いやられた。二度と行かない。)
香水やハンドクリームは一切付けず、洋服の柔軟剤の香りさえも気にしながらこの日を迎えた。
おひとり様寿司は慣れているが、老舗となると少し緊張する。

楽しみ過ぎて12時に既にお店に着いてしまった。
お店の開店は12時からであるが、敢えてお店の方から12時半を提案されたと言う事は、30分でさくっと食べるお客さんがいるのか、はたまた握り手さんの仕込みの時間があるのか…と色々妄想してしまい、浅草松坂屋で時間を潰す。

ついに12時半になり期待と興奮で扉を開けた。

「予約のお客様で一杯です」との事

「12時半から予約しましたおとうふと申します。」

と告げると、カウンターの中央席に通して貰った。
カウンターには私だけ、奥のテーブル席には常連らしきご家族連れやご夫婦がお寿司を嗜まれていた。
私も常連になりたい。
私の左には二席分おしぼりが用意されていたので、後からお客さんが来るのだろう。

この日は81歳を迎える5代目の内田さんと6代目の山下さん、お2人が立たれていた。
何て贅沢なんだ。
店内には「美味しんぼ」の花咲アキラさんが書かれた5代目内田さんのイラストが描かれた色紙が飾ってあり、常連という中尾彬さんが描いた魚拓?ののれんが掛かっていた。

「今日はお写真を撮っても良いですか?」と伺うと、「是非。美味しそうに撮ってくださいね。」と山下さんは快く承諾してくれた。

まずは生ビールで乾杯。大好きなサッポロでした。

サッポロビールでひとり乾杯を済ませていざスタート。お通しの鮪の佃煮が嬉しい。
握りが17巻と巻物が付いてくる「美家古」のコース(12,375円)も気になったが、量的に自信がなかったので、つまみ3品がつくおまかせ10巻の「寿」コース(12,100円)をシャリ少なめでお願いした。

まぐろと海苔の佃煮

おつまみ一品目はまぐろと海苔の佃煮。
佃煮の甘味とわさびの辛みがちょうど良いバランス。お酒が進む。

ここで「13時に予約したものですが、少し早くても良いですか?」と、私と同世代らしきカップルが来店した。
予約時間より20分前倒しに来店するのに気を遣わない人は遣わないんだなぁと、自分の30分の散歩が馬鹿らしくなる。お酒が進む。

この時既にビールが半分以下になっており、つまみの内容的にも日本酒へ早目に切り替えようとお品書きを物色する。
その姿を山下さんは見逃さず、冷酒なら秋酒をとお勧めしてくださった。

壱→弍→参→ 肆の順で辛口へとなる

2人なら全種類行けるけど、ひとりなら3種類が限界かな…と「まずは壱番の『百十郎』を」と頼む。
ここで「まずは」と言ってしまうあたりが呑兵衛が溢れてしまっている。
多分バレた。

百十郎
ガラスのお猪口が美しい
平貝の磯辺巻きと平目の煮凝り

日本酒はすっきり爽やか。
純米吟醸らしい飲みやすい日本酒。
大好きな平貝の磯辺巻きと良く合うなぁ。
香ばしい海苔の香りが鼻に抜け、日本酒がどんどん進んでしまう。
煮凝りは少し生姜も効いていて辛子がなくてもしっかり美味しい。4代目がよく作られていたとか。


ひとり飲みでついついしてしまうのは隣席の会話の盗み聞き。
お隣のカップルは付き合う前の様な程良い距離感を感じた。
基本女性が良く喋り良く質問し、男性はぽつりぽつりと返答していた。
「どのコースにする?」と男性が聞くと女性は「任せるよ」と言った。
軽めの握り4,620円からおまかせ14,300円まである品書きの中からどれを選ぶかで彼と彼女の距離感が決まる。(気がする)
「お腹空いてる?」「うん」「じゃあこの…司(14,300円)で。」
彼は頑張った。
サッポロの赤星を2人でシェアしながら、私は幸せをお裾分けして貰いながらつまみにして飲んだ。


ヌタ

おネギのシャキシャキとした食感が良い。
鮪と蛸の足と貝のヒモが入っていて、酢味噌がまた日本酒が進む。

萩錦
アベンジャーズみたいなラベル

山下さんのお勧めでお次は萩錦を。
四つの中で一番の辛口なので、百十郎と比べるとかなりキリッとしている。
背筋が伸びる様な感じ。


日本酒も2種目となり、これからやっと握りが始まります。

真鯛と平目の昆布締め

二貫づつ出して貰うスタイル。
白身魚からスタートする王道な感じが心地よい。
特に平目はねっとりしていて味わい深い。
またまた日本酒が進む。

赤貝と新イカ(赤ちゃん)

私がシャリ小を頼んでしまったので赤貝のサイズ感がお化けの様になってしまった。コリコリで美味しい。
イカはサクサクねっとりと、食感が楽しく旨味もある。

才巻海老と小肌

実は車海老は出世海老で、サイズによって呼び名が変わる。
小さなサイズを才巻(細巻)と呼び大きくなるにつれて中巻と呼ばれるらしい。
美味しい上に目にも鮮やかで、更に勉強になる。

小肌は一番好きなお寿司のひとつ。
「美味しんぼ」を読んだからこそ、この一貫の為にとても丁寧な仕込みをされていると知って大切に食べなくてはと思う。
ちょうど良い塩梅で噛めば噛むほどお魚の旨みが溢れて来る。酢飯との相性が本当に良い。

ここで「ある時だけなんですけど」と海老のお椀を出して頂いた。
見た目はお味噌汁だが飲むと海老のビスクの様だった。

煮鮑と煮穴子

鮑はしっかり煮てあるので、想像よりも柔らかい。しっかり味が染みていて幸せな気分になる。
煮穴子は柔らかく、崩れる前に急いで口に放り込む。口の中でシャリと一緒にほろほろと崩れる。ツメの甘さが絶妙で思わず笑顔になる。
また「美味しんぼ」知識ではあるが、ツメにもこだわりがある。
穴子の煮汁とスルメイカの煮汁を合わせてるとのこと。
先代からのツメに継ぎ足しで作り、お店から修行して独立する人は分けて貰うんだとか。
素敵なお話だ。

秋とんぼ

あと2貫しかないので「お茶にしますか?」とやんわりお勧めされたにも関わらず、無理言ってもう一合出して頂いた。
お寿司になるとお酒のペースが落ちてしまう。
最後の日本酒は「秋とんぼ」。
名前で飲める気がする。

玉子と鮪の漬け

コースの最後は玉子と鮪の漬け。
玉子には芝海老のすり身が入ってるので甘い中にもしょっぱさがありぱくぱくと食べれてしまう。
鮪の漬けはしっかり味付けされていつつ水分が程良く抜けているので、口の中でシャリと混ざり合って最高の時間を紡ぎ出す。

お隣のカップルさん追い付かれてしまい、食べるペースが遅い事を反省する。

日本酒もまだまだあるので追加で握って頂く。

鮪の漬けと鮪の赤身
食べ比べ

漬けを気に入ったので、そのお代わりと赤身を食べ比べ。
鮪の中トロも気になったけど、しっかりピンクだったので遠慮した。

最後の最後に煮蛤

これも「美味しんぼ」を読んだら絶対に食べたくなるお寿司。
シャリ極小なのでかくれんぼしてしまっている。
柔らかくて甘くて旨味があって、デザートみたいに食べてしまった。


6代目山下さんから「顔色ひとつ変えずに飲むんですね。」とお褒めを頂き、浅草界隈のお勧め日本酒嗜める店をいくつか教えて貰った。

「好きそうな日本酒あるよ。」
と、奥から出して来てくれた日本酒が美しかった。

大嶺酒造の大嶺三粒
たなかみさきの絵
ゆきおんな(私に似てる)
ちゃんとお米粒が3粒あるのよ
ゆきおんな(脱げちゃってるよ)

せっかくだからと未開封の夏酒(人魚のやつ)を開けて試飲させてくださった。
お米の甘味が感じられる優しい濁り酒だ。

日曜日は通し営業と伺い、甘えて長居してしまった。
美味しんぼの山岡みたいに常連になれる様に通うしかないな。

80歳でも元気な5代目内田さんと、休みの日は一升瓶飲んでしまう6代目の山下さんと、気の利く優しい女将さんと、ポルトガルで働かれていた英語が堪能なお弟子さん。
素敵なお店で過ごせて幸せでした。

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