画鋲
私、乙子の約20年間の中で、初めて「死ぬかも」と感じた瞬間。
それは、小学生の頃の運動会で組体操の3段タワーの一番上から落ちたことでも、40度を超える熱を出して意識が朦朧になった時でもない。
小学5年生の時、忘れもしない。
教室に飾られている、自分の顔写真に画びょうが刺さっていた時だ。
初回はおでこ、小6はほっぺたに2つ、その掲示物に映る自分の表情まではっきりと覚えている。
中学に上がると靴の中に画びょうが入っていた。
最初に刺されたとき。あれはどんな季節だっただろうか。
ただ、その事実を知ったのは体育館だった。全校生徒が集まる集会で、それを知る男の子が私にこう言った
「おまえ、だれかにめっちゃにくまれとるよ」
画びょうが刺さっているとは言われなかったが、この体育館の中の誰かに嫌われてるんだ。と理解した。
画びょうには罪はないが、
「やべえな、私殺されるんだ」
と思った。
私は先生にまず相談した
「気づいてしまったか…」
そんな言葉をこぼした先生も涙目だった。すぐに私を抱きしめてくれた。きっと先生もどう対処しようか迷っていたのだろう。
給食が終わったとき、騒がしい雰囲気を一蹴するように先生が口を開いた。
「誰ですか。出てきなさい。こんな素敵な笑顔…」
みたいなことを言っていた気がする。
その掲示物をそれまで直視できなかった私は、その時初めておでこに穴空いた自分を見た。
こらえられなくて机にうつぶせて声を上げて泣いた。
こんな私でも友達は多いほうだった。とその時も思っていた。数人が駆け寄ってきてくれた。
家に帰り、それを話すと
ママは泣いた。パパも泣いた。
ママは寝るときに私にこう言った
「みんなの前で悲しい顔見せたらだめだよ。そいつはっ絶対に繰り返しやってくるから。あんたが悲しいのがうれしいの。だからきにするんじゃない」
ママは前の職場でいじめられていた。押し付けられる異常な仕事の量。でも誰にも相談しなかった。そして結婚する時、
「結婚するんで辞めます。疲れたし。ありがとうございました」
と言って会社を辞めた。
結婚するから、という理由で辞めると言っているのに、さんざんいじめてきたママより高学歴の大人が次々と謝りに来たそうだ。
愚かだ(笑)
かっこいいなママは。私は少し強くなった。
小6の時も同じように、まず先生に相談した。その時も泣いてしまったかもしれない。あまり覚えていない。きっとまた私は強くなった。
そして中一の春。春だったあれは。
掲示物がなくなったことをいいことに、今度は靴の中に入れるなんてな(笑)ちょうど下駄箱が一年生の掃除担当だったもんね。
先生は「ごめんな」と言ったのを覚えている。涙目だった先生につられた私は先生と泣いた。
でも、次の日先生は私の名前を出さずにこんなことがありました。ということだけみんなに話した。
その時私は泣かなかった。強かった。
それ以来、画びょうが刺されることはなくなった。私の心を刺す出来事は何もなく、中学生活が終わった。
今、私は大学生。19歳。
大学生って何??
留学行くのが正解なのか、資格をたくさん取るのが大学生なのか。
外に出られないから余計に、将来のことを過剰に考えてしまう。
この記事を書いていて、
次に私に画びょうを刺すのは誰だろう。もしそれがあの人とあの人とあの人たらどうしよう。
急に不安になって、涙が出た。
あの頃の強さはどこに?
でも私は知っている
画びょうを刺すのは、中学一年生以下のクソガキだって。
画びょうがなければ、何もできない。
掲示物と私の靴がなければ何もできない。
本人目の前にしたら何もできない。
考えれば、そのクソガキでも、中一になってばかばかしくなってやめたのだ。
そんな弱虫と並んで歩く必要などない。害虫だ。
一度だけ泣いて、涙を拭いて、何事もなかったかのように目を大きく開いて、口角をキュッと上げて前を向け。
だからね、木村花さん。
あなたは死んじゃだめだ。
あなたにはぜったいに前を向ける強さがある。それを見つけられなかった。誹謗中傷でそれを見つけられなかっただけだ。
誹謗中傷をした人たちが次から次へとつぶやいた「死ね」を消した。
罪悪感なんて、、
だからね、
本当に心から死んでほしいと思っている人なんていなかったんだよ。
本当に死んでほしいと思っている人は、「死ね」を消さないよ。
私にはわかる。それは、あなたが味わったことと同じだろう。
私が約20年間生きてきた中で、心臓の動機が一瞬止まり、「死ぬかも」と思ったときは、車にひかれた時でも、大やけどを負った時でもない。
心に画びょうを刺された時だ
「コメント」が画びょうになるのだ。残念ながら、とっくの昔に気づいていたはずだ、みんな。
画びょうが刺さらないような、心の鎧を。
そんなのいらないくらいやさしい世界を。
もう2度とこうしてはならない。
ps
私は「死ぬかも」とは思ったけど、「死にたい」とは一ミリたりとも思わなかった。
そう思わせなかったママとパパに友達に心から感謝している。
本当にありがとう。
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