見出し画像

『ニャリクサ』短編オトシネマ(オーディオドラマ)脚本

「耳で聴いて心で感じる」オトシネマは、音の映画をコンセプトに、様々な音声作品をSpotify等の音声プラットフォームにて配信しております。

こちらのオトシネマ作品集【脚本アーカイブ】では、配信されている作品を文章の形でご紹介させて頂きます。

耳の不自由な方、聴くのが難しい環境の方も、是非こちらからオトシネマコンテンツをお楽しみ頂けましたら幸いです。

ニャリクサ(アイコン用)


『ニャリクサ』

登場人物
■磯部たつお(30歳・男性)
■ニャリクサ(スマートスピーカー)
■わかめ(雌猫)

あらすじ
彼女と別れ、心に深い傷を負ってしまった磯部たつお。
心のセラピーの一環として俳優活動をしながら暮らす日々。
そんなたつおの心の癒しは、猫型スマートスピーカーのニャリクサだった。
ある日たつおが部屋の大掃除をしていると、ニャリクサから本物の猫の鳴き声が聴こえてきた!
それは3か月前にたつおの元から逃げ出してしまった、飼い猫の鳴き声だった。
一体このニャリクサに何が起こっているのだろうか…!?

(※以下Spotifyリンクよりオーディオドラマのご視聴が可能です。)

ニャリクサ との生活

(『ガチャ、バタン。』と玄関のドアが閉まった。)
たつお「は〜しんど。」
(『スタスタ』と玄関から歩いてくる音がする。)

たつお(ナレーション:以下NA)【磯部たつお。30歳。昨年同棲していた彼女と別れ、心に深い傷を負った僕は、大手IT企業も退職し、現在は出前のバイトをしながら、なんとか暮らしている。】

たつお「何事ですか!ハクさん。申し遅れました。今日からハクさんの下で一緒に、う、あぁ…。ちょっと嚙んじゃったなぁ…。」
たつおは台本読みの練習に励んでいるところだ。

たつお(NA)【心のセラピーの一環として始めた俳優活動。活動といっても、これまでオーディションで一度も受かった試しがない。やはり僕に俳優は向いていないのだろうか…。】
たつおは「はぁ…」とため息をついた。

たつお「ニャリクサ、音楽かけて!」僕は気を取り直すようにニャリクサに話しかけた。

(『ニャニャー!』と元気よく電子音が鳴って、ニャリクサが起動した。)
ニャリクサ【たつおのプレイリストを再生しますニャ。】

(ウクレレのほのぼのとした音楽が流れている🎵)

たつお(NA)【現在僕の唯一の心の癒しは、このニャリクサ。最近何かと人気の猫型スマートスピーカーで、3ヶ月待ってようやく購入する事が出来た。】

コーヒーを飲みながら、たつおはニャリクサにこう尋ねた。

たつお   「ねえ、ニャリクサ。どうやったら映画とか、ドラマに出演できんのかな〜? ちょっと調べてくんない?」
ニャリクサ 【ウェブで「映画、ドラマに出る方法」を検索しますニャ。】
たつお   「おお、やってくれるのか。」
ニャリクサ 【…大手の芸能事務所に所属するのが近道ですニャ。】
たつお   「それが出来たら苦労しないよ!😣」
ニャリクサ 【ウェブで「大手の芸能事務所に所属する方法」を検索しますニャ。】
たつお   「おお、そんな事も調べてくれんのか✨」
ニャリクサ 【…実績とコネが必要ですニャ。】
たつお   「どっちもね〜よ!😫 は〜もう疲れたわ。」
ニャリクサ 【ゆっくり休んでくださいニャ。】

(『ニャー』という電子音が鳴って、ニャリクサがシャットダウンする。)

ニャリクサの異変

(『ウィィーン』と掃除機の音が響き渡っている。)

たつお(NA)【世間がようやく本格的に動き始めた2022年1月の中ごろ。僕は大掃除をしていた。年末年始に出前の仕事で忙しくて出来なかったのだ。】

たつお 「…あ。」

たつお(NA)【掃除機をかけているとソファの下から未開封のちゅーるが見つかった。…でも、僕にはこのちゅーるはもう必要ない。いうまでもなく、ニャリクサにとっても…】

寂しげなたつお。ゴミ箱にちゅーるを捨てようとしたその時…

(『ニャニャー!』と電子音が鳴り、突然ニャリクサが起動した。)

ニャリクサ 【ニャー! ニャー! ニャー!】

たつお(NA)【突然ニャリクサから、どこか聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえ始めた。その鳴き声は、どんどん大きくなっていく。まるで、ちゅーるを食べさせろと催促しているかのように。】

たつお(NA)【僕は思わず、ちゅーるをニャリクサの口元のスピーカーに持っていく。すると、なんとちゅーるがどんどんニャリクサに飲み込まれていくではないか!】

(ペチャペチャとちゅーるを舐める音がしている。)

たつお 「そうか、ニャリクサ、ちゅーる旨いか〜!よ〜しよし✨」たつおは喜び、猫なで声でニャリクサに喋りかけた。

たつお(NA)【…ってちゃうわ。これスマートスピーカーだぞ! 何をやっているんだ、僕は。何をやっているんだ、ニャリクサ! でも、なんかこの感じ、懐かしいぞ。…いや、ちょっと待てよ。】

(『ニャオーン、ニャオーン』と、猫の甘えた鳴き声がしている。)

たつお(NA)【やっぱり! この甘えた鳴き声は…!】

たつお 「…わかめ!」

(『ニャリーン!』というニャリクサの電子音が鳴った。)

ニャリクサ 【…わかめはたつおの家で暮らす猫。たつおはわかめを物凄く可愛がっていますニャ。…2021年10月以降、わかめのアップデート情報がみつかりませんニャ〜。】

わかめの行方

たつお(NA)【…そう、約3ヶ月前。】

(『ヒュー』とお湯を沸かしている音がしている。)

たつおは今日も台本読みの練習に励んでいる。
たつお「確かに…ドイツの屈強な刑事みたいでかっこいい名前ですね。ではハクさん、改めローベンさん。これからよろしくお願いします。」

(『リリリン』と猫の首輪の鈴の音が鳴った。)

たつお(NA)【…僕はベランダの窓を開けて換気をしながら、カップラーメンのお湯を沸かしていた。そして、つい本読みに夢中になっている隙に、わかめが外に逃げ出してしまったのだ。】

(『ズズズ…』とカップラーメンをすする音が聞こえる。)

たつお 「は〜うめ〜。わかめもご飯食べるか? あ、あれ? わかめ? わかめ? うそ? わかめ? わかめ〜!💦」不安そうな声で何度もわかめの名前を呼んだ。

(ここではカラスの鳴き声が聴こえている。)

たつお 「わかめ? わかめ〜!」
たつお(NA)【あれから何日も街を彷徨い歩き、わかめを探した。」
たつお 「お願いします! お願いします!」
たつお(NA)【商店街でひたらすらチラシ配りもした。でも、わかめが見つかる事はなかった…】

わかめとの再会

(『ニャーオ、ニャーオ』と猫の甘えた鳴き声が聴こえている。)

たつお(NA)【しかし、そんなわかめが今、確かに目の前で鳴いている。】

(ここから、優しくゆっくりとしたピアノの音楽が流れはじめる🎹🎶)

たつお 「わかめ? わかめなのか? わかめなんだろ?」
わかめ 「…うん、そうだよ。たっちゃん、久しぶり。元気してた?」
たつお 「わかめ〜! お前いつから喋られるようになったんだよ〜!」

(『ジョリジョリ』と擦る音が鳴り、たつおはニャリクサに頬擦りをした。)

わかめ 「ちょ、ちょっと、もうやめてって! 髭が痛いから頬擦りはやめてってずっと言ってたでしょ。しかもあなた臭いの!」
たつお 「ひどい! 久々に会ったのに、そんな事言わないでよ〜!」
    そう言いながらも、たつおの声は嬉しそうに弾んでいる。
わかめ 「ってか、最近どうなの? 俳優活動は順調?」
たつお 「さっぱり! オーディション全然受かんないんだよ。」
わかめ 「まあ、そのうち受かるって。」
たつお 「全くそんな気がしないな〜。」
わかめ 「何言ってんの。あれだけ本読み頑張ってたじゃない。」
たつお 「本読みをずっとしてたって。誰も聞いてくれないじゃん。」
わかめ 「私が聞いてる!」わかめはハッキリとした声でそう言った。
たつお 「え…」
わかめ 「…私ね、あの時も集中してるたっちゃんの事を邪魔したくなかったんだ。だから外に出たの。」
たつお 「え? そうだったの?」
わかめ 「うん、そうだよ。外…寒かったなあ…」
たつお 「…わかめ、ごめんね。本当にごめんね。僕…」と、たつおは今にも泣き出しそうな声だ。
わかめ 「謝んなくていいよ。たっちゃんは全然悪くないよ。全ては、私の責任。自業自得ってやつ。」
たつお 「…わかめ。」
わかめ 「ん? 何?」
たつお 「…わかめは、今どこにいるの?」
わかめ 「私は…」
たつお 「…」
わかめ 「…いつも、たっちゃんの側にいるよ。」
    わかめは明るくハッキリと、そう答えた。

その後のたつお

(ここでは爽やかなギターの音色と、スズメの鳴き声が流れている✨)

たつお 「何事ですか!ハクさん。申し遅れました、今日からハクさんの下で一緒に…」
たつお(NA)【あれから約1ヶ月。様々なオーディションを受けまくったが、まだ合格の知らせはひとつもない。でも僕は、今日もまた、本読みをする。たとえ、オーディションに受からなかったとしても、僕は、本読みを続ける。側で聞いてくれる彼女がいる限り。】

(『プルルルル、プルルルル』とスマホの着信音が鳴っている。)

ニャリクサ 【電話が鳴ってますニャ。】
たつお 「はい、磯部です。 はい、はい…え!?」たつおはビックリと声を驚かせていたのだった。

《 おしまい 》

作品制作キャスト・スタッフ

■磯部たつお役:国海伸彦
■ニャリクサ・わかめ役:伊藤るび
■脚本・監督:松本大樹

■脚本編集/記事掲載:ニーナ
■イラスト:TATASUMIRE

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?