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読書感想文 漁港の肉子ちゃん

まだ読んでない方に書店の推薦コメント風にお勧めするなら
「不細工で太っててセンスが悪くて、でもおおらかで優しくて愛に溢れた肉子ちゃん。 考え方や観察眼が大人びた娘喜久子の成長物語。でも、さらりと語られる肉子ちゃんの人生の方が壮絶だ。人を信じ人を赦す肉子ちゃんが愛されないわけない」

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル 漁港の肉子ちゃん
作者   西加奈子
出版社  幻冬舎

2011年に発売された小説なのですが、アニメ映画化されるまで存じ上げませんでした。なるほど、ハートフルなアニメになりそうなお話ですね。

あらすじ

とある漁港にある焼肉屋「うをがし」で働く肉子ちゃんは38歳。数々のダメな男を渡り歩いて娘の喜久子と共に、うをがしの裏の小さな平屋に落ち着いた。太っていて不細工でおおらかで、誰とでも友達になってしまう肉子ちゃんと娘の喜久子の日常を優しく描いた作品である。
小学生の喜久子は、本好きの少女の設定だからか随分感覚が大人びている。小学校の女子の仲間割れに巻き込まれたり、二宮という男の子が気になったりするが、人間観察の鋭さは大人以上だ。
だから、周りの大人とも対等な感じで空気を読もうとする。
焼肉屋の従業員の家族が食中毒になっては店の評判にかかわると盲腸の腹痛を隠して気を失ったりもする。
肉子ちゃんの実の子ではないと気付いているから、自分は望まれずに生まれてきたと思い込んでいる。周りの空気を読もうとするのはそんな喜久子の遠慮から来るものでもあった。
でも喜久子は望まれて生まれてきて、皆から愛されているのだと知る事ができた。
喜久子は言う。
「肉子ちゃんみたいにはなりたくない」
「人の子供育てて、糞男に騙されてばっかりで」
「自分はめっちゃ貧乏で、安い、だっさい服しか、買われへん」
「太ってて、不細工で」
「言うことおもんないし、頭悪いし」

「でもな、うちは肉子ちゃんのことが大好き」

肉子ちゃんと喜久子は相思相愛の愛に溢れた母娘なのだ。

感想

肉子ちゃんのような人が現実にいるとは思えないが、とにかく愛とやさしさに溢れている人だ。
自分の周りの人を愛し、信じる。
周りの人の悲しみも、見知らぬ人の悲しみも等しく悲しむ。

不細工で太っていてセンスの悪い肉子。
反して、喜久子自身は美しい容姿をしている。喜久子の産みの母が美しかったからだ。
この対比はなんなんだろう?
人の幸せは、容姿で左右されるものじゃないという対比だろうか?

肉子の育ちについてはあまり触れられていない。
4歳で父を亡くし、中学生で祖母を亡くし、高校に行かず一人家を出た肉子。16歳でスナックで働きカジノのディーラー、自称学生、サラリーマン、自称小説家と次々男に騙されてお金を巻き上げられていく。人の借金を笑顔で返しながら、妹分の面倒をみて父親のわからない子供を産ませて育てる。
肉子は自分を騙した人間すら許すタイプの人だ。
そんな人いる? そんなことある?
ひねくれ者の私はちょっと引いてしまうのだけれど……

そんな肉子の優しさに癒される人がいるかもしれない。それが、この小説の良さなのだろうと感じた。何も考えずに、色々ダメでも優しくておおらかなお母さんと、大人びた娘と、その友人達の日常を通した成長物語をさらりと読んで、肉子の優しさとおおらかさに癒されてホッとするのが良いのだろう。

ところで、装丁のエロティックな女性の姿は……いったい誰?
まさか肉子ちゃん?!だとするとイメージが全然違うのだけれど……
と不思議に思っていたら、コメント頂いてわかりました。
クリムトの「ダナエ」をイメージソースに西加奈子さんご自身で描かれた絵の様です。
なるほど、エロティックだけれど母性を感じさせる良い画ですよね。

母性かあ~
肉子ちゃんの「すべてを優しく包み込み、裏切りすら愛する気持ち」は無償の愛。女神の持つ母性、というイメージが浮かびます。
なるほど、なんだか肉子の人を超越した優しさは、そんな神がかった母性なのかしら、と納得してしまいました。

小説だけではなく絵まで描ける。天は与える人には二物も三物も与えるものなんだなあ……と思うばかり。

#電本フェス2021秋読書 #漁港の肉子ちゃん

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