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読書感想文 町田そのこ あなたはここにいなくとも

おつやのよる
ばばあのマーチ
入道雲が生まれるころ
くろい穴
先を生くひと
の5編も短編集です。

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

おつやのよる
 清陽の祖母春陽が亡くなったと知らせがある。田舎の家族をまとめていた要のような祖母だった。清陽は、ある理由で祖母に恋人章吾を紹介することができなかった。実家に戻ると従姉妹は離婚騒ぎを起こしていた。そんな騒ぎの最中に現れたのは……

ばばあのマーチ
 香子はいじめやセクハラで退職した。ちゃんとした仕事を探そうとしない香子を恋人浩明は正論で責める。近所に庭で色々な食器を指揮するように叩いているオーケストラばばあと呼ばれる変わった老女がいる。香子は老女の叩く食器の中に、以前仲良くしていた南さんのグラスを見つけるのだが……

入道雲が生まれるころ
 看護師の萌子は、突然人間関係をリセットしたくなるリセット症候群だ。恋人海斗との別れを決断したのもそのせいだ。海斗を置いて、知人女性藤江の葬式の手伝いに実家に戻った萌。だが実家は大騒ぎをしていた。親戚と思われていた藤江は失踪宣告された人物で、祖父の愛人だったかもしれない。親たちは体裁が悪いと大騒ぎだが、萌子は静江の世話をしていた妹の芽衣子と静江の遺品整理に向かう……

くろい穴
 会社の上司馬淵と5年間も不倫関係にある美鈴。馬淵は自分の妻の為に栗の渋皮煮を作ってくれと言う。祖母から教えられたレシピで丁寧に作った渋皮煮を馬淵の妻は以前口にしており、気に入ったというのだ。都合のいい女だと思われていることをわかりながら、渋皮煮を作り始める美鈴だが、一つだけくろい穴のあいた栗が混じっていた……

先を生くひと
 高校生の加代と藍生は幼馴染。最近藍生の様子がおかしく、彼女ができたのではないかと疑った加代は、自分が幼なじみ以上の感情を藍生に持っていることに気づいて心がざわつく。藍生のあとをつけて入った家には、老女澪と澪のてっそん菜摘がいた。訳あってこの家に通う藍生は菜摘のことが好きなのだ。藍生は加代の恋心を厭い、加代はショックをうける。だが、澪は言う……

5編の短編は、どれも老齢の女性が出てきます。
10代、20代の若い主人公とは年のはなれた老齢の女性たちの人生。
年を重ねるごとに年輪のような経験が蓄積された女性たちの言葉や行動は、若い主人公たちにとっては新鮮で気づきのあるものばかりです。
そんな年の離れた人物に触れた感情や、残したものから若い主人公たちは、何かを学び、救われ、変わっていきます。
「あなたはここにいなくとも」のあなたは、老齢の女性たち。
彼女たちが残したものを、若い世代が受け取り、変化させ、きっとまた次につなげていくのだろうなと感じられる優しい物語ばかりでした。

私は、物語の老女たちの年齢にはまだ少し足らないけれど、子供がいないので身近に何かを受け継いでくれる相手がいません。
だから、私は「先を生くひと」で断捨離をする澪さんの気持ちにぐっときました。若い人たちに自分の持ち物を貰ってもらい、自分のことを思い出として記憶してくれる相手がいれば、もう、思い残すことはない。
遠い未来で待っていてすべて抱きとめてあげるという澪の言葉に、加代がホッとできてよかったなあって感じました。
澪さんは、加代と出会えて、加代は澪さんと出会えてよかった。
そんな、奇跡のような出会いが現実にあるかどうかはわからないけれど、「最初から諦めなければならないことなんてない」と言い切ってしまう澪さんの言葉は、本当に力強いですよね。
若い人が、この言葉に勇気づけられて前に進めるなら、本当に良い言葉だなって思います。
この物語に登場する老女たちは、みんな魅力的です。
だから、若い方がこの物語を読んで、何かに気づき、救われ、前に進めるのならもう、それはそれで素晴らしいことです!

テレビ番組で町田そのこさんが「私は、何かを諦めたことがない」とおっしゃっていて、なるほど~、澪さんの言葉はこういう町田さんだからこそ、するりと出て来るんだろうなあって感心してしまいました。
だから、この作品に出てくる老女たちは魅力的なんだなあって感じました。

だけど、自分の人生を振り返ってみると、私なんざダメダメ婆ちゃんだなあって思いました。
私は、やる前から諦めるタイプの人間なのですわ。
我ながらダメだな~とも思うのだけれど、
「あーこんなの無理無理」「身の程を知らなくっちゃ」
って考え方で、達成できる目標だけを持って年を重ねてきたのですよ。
何事もほどほどで、そこそこに、生きてきました。
すごく頑張ることもないかわりに、ひどくさぼることもなく生きてきました。それなりの目標を持ち、コツコツ前に進むのだけれど、それはそんなに大きな目標じゃないから、それなりに達成できてしまう。
受験にしても、就活にしても、合格ライン以上の目標を定めないで生きてきてしまいました。

だから「最初から諦めなくちゃいけないことなんてない」って言い切ることなんてできません。
「いけそうな目標を立てた方がいいよ」って言いそうです。
全く感動的ではないね~ 現実的なんだけど~

でもね、これといった後悔はしていません。
ま、自分には無理だな~って思ったら潔く諦めるっていうのも、それほど悪いことではないと思うんですよね。
ただし、諦めたあとの考え方はポジティブでないとだめだと思います。
例えば、A大学は無理だから諦めてC大学に通った場合、C大学に通うことで得たものを人生の糧にして次に進まなくっちゃ諦めた値打ちがなくなります。私はA大学は無理だからC大学に行ったけれど、C大学を知ることで世界が広がった、こんないいことがあったって思えるポジティブシンキングは必要だと思います。
私は、これ、ほどほどに満足できる人生の送り方じゃないかなって思っちゃいますけれどね。

なんか、読書感想が違った方向に行ってしまった。

でも、ほどほどで、結構幸せなの……

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