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ヅカオタ的読書感想文 永井紗耶子 木挽町のあだ討ち

この作品は、第169回直木賞 第36回山本周五郎賞 ダブル受賞作です。
さすが、面白い!
そして、やはりヅカオタの琴線に触れる作品でもありました。

雪の降る夜、木挽町の芝居小屋のすぐそばで赤い振袖を被き、傘を差した美しい若衆が、父親を殺め今は博徒となっている下男を斬った。
若衆の白装束は血にまみれ、下男の首級を高々と掲げた姿は見る者の記憶に残り、喝采を浴びた。
若衆の名は、菊之助。
だが、二年の後に菊之助の縁者というものが、仇討の目撃者に事の顛末を聞いて回る。
仇討の真相とは……

なんてったって、芝居小屋が舞台なので、ヅカオタのような芝居好きには設定そのものが面白いです。

冒頭のあだ討ちのシーンだけで、舞台が見える気がします。
ヅカオタな私の場合、宝塚大劇場ですけれど……
暗い舞台上、上手には芝居小屋。その窓から洩れる一筋の光。
光の中に見えるのは、雪の中に立つ赤い振袖を被いた傘をさす人物。
下手から現れた博徒が振袖を見て娘だと思い、無体なことをしようとちょっかいをだし、無理やり手を掴む。
その瞬間、振袖を脱ぎ捨て、傘を投げ捨て、現れたのは白装束の美しい若衆。(私の頭の中では、この若衆、ちなつさんね……)
あだ討ちの口上を述べると、博徒に斬りかかる。
芝居小屋からも、路にも見物人が現れ、あだ討ちを見ている。
博徒の方が大柄で押されるけれど、とうとう一太刀浴びせ、若衆の白装束に血が飛び散る。博徒は暗がりに倒れ込み、それを追うように暗闇に消える若衆。そののち、首級をとった若衆が光の中で首級を掲げる……
見物人がどっとわく!

ひゃあ、かっこいいシーン!

ですが……
父清左衛門を家人の作兵衛に殺され、あだ討ちを果たした息子菊之助ですが、このあだ討ちには、別の真相がありました。

あだ討ちを見ていた、木戸芸者、立師、女形、小道具職人、戯作家の話を聞く、菊之助ゆかりの者。
あだ討ちの話だけではなく、それぞれの人生と菊之助の関わりが語られる。
あだ討ちに悩む菊之助の心情や菊之助の力になろうとする市中の人々の心が繊細に描かれていて、時折涙が零れます。

後半になってくると「もしや?」と思わせられます。
そして「やっぱり!」という結末で、読後感もとても良いです。

主君への忠義とは? 親への孝行とは? 
悪所と呼ばれる芝居小屋の中で生きる人々と、市中の人々、そして武士。
同じ人間に違いはあるのか?
誰が上で、誰が下なのか?
芝居が、役者が、人に与えるものは何か?

芝居が人を救う。
そんなやさしい世界が描かれています。

ヅカオタならわかる、わかると共感できること間違いなし。

この作品、私的には今年読んだ本の上位に位置するのは間違いありません。

並木五瓶や尾上榮三郎、尾上松緑など実在の人物も登場し、登場人物と関りを持っているのも面白いです。

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