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舞台感想 配信 バイオーム

いやはや、アーカイブ有りの配信に感謝、感謝です。
うえくみ先生の退団後、初の作品だから興味津々で、イープラスで配信購入してワクワクしてたら、宙組のFLY WITH MEも同じ日だあああああと焦ってしまった。よく見たら、アーカイブ有り。
ああ、本当にありがとうございます。
それに、きゃあ! 楽しかったああ! っていうコンサートとは違い、
この作品は、ちょっと繰り返してじっくり見たい部分もあるので、本当にアーカイブを見せて下さるのは、一粒で二度おいしい。

ネタバレありの舞台感想です。

ストーリーは発表されている内容は、こちら。
その家の男の子・ルイはいつも夜の庭に抜け出し、大きなクロマツの下で待っていた。フクロウの声を聴くために…。
男の子ルイの父・学に家族を顧みるいとまはなく、心のバランスを欠いた母・怜子は怪しげなセラピスト・ともえに逃避して、息子の問題行動の 奥深くにある何かには気づかない。
政治家一族の家長としてルイを抑圧する祖父・克人、いわくありげな老家政婦・ふき、その息子の庭師・野口。
力を持つことに腐心する人間たちの様々な思惑がうずまく庭で、古いクロマツの樹下に、ルイは聴く。悩み続ける人間たちの恐ろしい声と、それを 見下ろす木々や鳥の、もう一つの話し声を…

役者さんはすべて二役演じます。
中村勘九郎さんは、ルイとケイ
あとの役者さんは、人間と植物。

見終わってふと、中村勘九郎さん演じる、ルイとケイは、「係累」からイメージされた名前かなって思いました。
で、ちょっと「係累」の意味を調べてみると
「係累」goo辞書より
つなぎしばること。
心身を拘束するわずらわしい事柄。
面倒を見なければならない親・妻子など。

私は3番目の意味しか頭に思い浮かべていなかったので、おお!そうなのか!と妙に納得しました。
「つなぎしばる」「心身を拘束するわずらわしい事柄」って意味かあ。
……深い……深いわ……いや、これが名前の由来かどうかは知らんけど……

政治家の家につながれ、しばられ、家族の面倒を見なければならない人々の物語ですものね。

この作品を見ると
人間という生物の愚かさを見せつけられ、自分自身が人間という生物であることを呪いたくなるような気持ちになります。
でも、人間も獣、たかが生物、死んで土に還れば、雨となってまた降り注ぐ自然の循環の一つだと言われているように思います。

登場人物の誰もが、一癖二癖あります。
家族を抑圧する克人は、過去には抑圧されている。
怜子は出生に秘密があり、愛されることを憎み、誰のことも愛していない。
学は仕事ばかりで、義父の顔色を伺い、秘書と通じている。
野口は怜子を密かに想い、ふきもそれを知っている。
ふきは、ばあやとして怜子を愛するが、その愛は報われない。
ともえは、我が子の為にお金になる怪しげなセラピーをしている。
ルイは、夜の庭に行くことをやめられず、ケイの存在を信じている。
ケイの存在は周りの大人には見えない。

政治家一家の栄光を続けるために、政治家一家がしてきたこと。
これからしようとすることのおぞましさ。
身勝手な人間の欲望と執着がたどり着く先にはなにがあるのか。

様々な、愚かさを見せられます。
自然を支配しようとする人間の愚かさ。
政治家が政治をしない愚かさ。
家を継がせるための子供を願う男の愚かさ。
豊かに育った人間の我儘という愚かさ。
我が子の為なら嘘をいとわない母の愚かさ。
母性を愛だと信じ、復讐と愛の区別がつかない愚かさ。
血族に栄光を残そうとする執着の愚かさ。

人の命が消えても、残された人間は日常を送り続けるであろう。
人の愚かさは変わらないであろう。
それでも朝日は昇り、生命は生まれ、死に、土に還り、雨になり、淡々と続いていく……

絶望的な終わり方でもないけれど、明るい希望が見える訳でもない。
そんな、印象を受けました。

しかし、役者さんはどなたもすごい。
特に、麻実れいさんの説得力はこの物語を、ずっと引っ張っておられるように思いました。すごい……すごいわ……
中村勘九郎さん、ずっと八歳の子供を演じ続けるのです。
花總まりさんは、わがままで身勝手な破滅型の妻と、可憐なクロマツの芽を同一人物とは思えない演じ分けでした。
古川雄大さん、たくましい二の腕に視線を奪われて色気を感じる。誠実な庭師なのにエロい。
野添義弘さん、重厚さと軽快さを兼ね備えていて、盆栽のあの姿勢はきついと思うのですが、役者ってすごい。
安藤聖さん、口跡が気持ち良い。怜子とのシーンは痛快でしたね。
成河さん、人間と植物との演じ分けが巧みで、最初同じ人だとわからなかったです。
どなたも達者な役者さんで、本当に見ごたえのある舞台でした。

正直、期待していなかったんです。
小説読む場合でも、私はエンタメ小説が好きで、純文学が苦手。
きっと、小説に例えれば、宝塚はエンタメ小説。
でも、ウエクミさんのことだから、ご卒業後は純文学でくるのではないだろうか? 難解な演劇やられてもチンプンカンプンだぜって思っていました。

今回の作品は、朗読劇という名のエンタメでしたね。
だから「おおおお。意外と面白かったじゃないか!」と思いました。

でも、あれ?と思ったセリフもありました、
野口の「母さんには姉さんがすべて」という言葉。
一瞬、姉さんって誰?って思いました。そして、ああ、怜子か……
でも、野口、いつから怜子が姉さんだと知ってたの?
ばあやが怜子にすべてを話したのは、あの時だよね?
だからきっと怜子はそれを遺書に書いたんだよね。
野口はそれを読んで怜子を姉だと知ったんだよね。……?
姉さんを抱いてしまったってショックじゃない?
野口が、あんな風にいとも簡単に「姉さん」って言葉に出すには意味があるのかな? ってちょっと不思議に思いました。

役者さんはどなたも素晴らしかったとは思います。
でも、どうして、中村勘九郎さんだったんだろう。
ずっと8才の男の子と女の子を演じるって……
どうしても、泣き方とか、歌舞伎を感じてしまって。ちょっと違和感。
ルイはまだ良いとして、女の子のケイがどうしてもすんなり入ってこなくて。どこか、無理がある。
私は、そんな風に感じてしまいました。

でも、まあ、総じて楽しめた舞台だったと思います。

次は、どんなものを仕掛けてくるのか?
上田久美子の今後からも目が離せない。




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