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【きつねのお宿 再会 〜道真と月音〜】

 8月4日きつねのお宿で道真役を演じてくれた、朗読あん様よりレターが届きました。
「私の願望を叶えて貰っていいですか?

道真は、、、
現実に戻ったあと
どうしても、月音にもう一度逢いたかった
、、、切なく、病身の身で月に願をかけていたら
なんと、再び、きつねのお宿に、、、

道真最後の想いをとげさせてください」

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 道真は病床で 長く床についていました。  窓の外には満月が覗いております。その満月を見ながら道真は懇願します。
「ああ!願わくばもう一度、きつねのお宿に…!!月音に会いたい!!!」
その望みの一言を聞き届けた存在がいます。

「 いらっしゃい 」

 この世には不思議な場所があるもの。もしかしたら、ここはもう、この世ではないのかもしれません 。ここはきつねのお宿、うぐいすの谷にある不思議な不思議な この世のものとは思えないほどのおもてなしを受けれる、お宿でございます。

 本日のお客様は、また再びいらしてくださった菅原道真様 。今は太宰府の地にて、病床に伏せております 。
 世の中からは謀反人、事情を知る周りからは、無実の罪を着せられて左遷された哀れな人としてみられていました。
 道真様の中ではきつねお宿で月音に言われた通り、権力の鬼になっていた自分から元の自分に戻っただけだと感じていました。
 なのに 周りからはそうは見られない自分と周りの人々の認識の差に苦しんでいました 。

 道真がふっと目を覚ますと、また再びきつねのお宿に来ていました。

「あらあら、物好きな方がいらっしゃるのですね。このきつねのお宿に来たいと願ってくださる方が、この世におられるのでありんすね 。まっこと面白いこと…」

 そこには着物こそ違えども、きつねの耳の生えた花魁風の女性、きつねのお宿の女主人、篠田月音がおりました。

「ああ月音…!!また再びめぐり会えるとは!!!」

「ほんに道真様は奇特なお方でありんすね 。なぜそうもこのきつねのお宿にまた行きたいと思ったんでありんすか?」
「私は月音と会って話したかった。 話して、もっとそばにいたかったのだ 」
「え?あらあらそうなんでありんすね…。でも、わっちをなんだと思ってるんでありんすか?わっちは人ではありんせん。
このきつねのお宿に男を招いては、たぶらかして籠絡するのが趣味な、ほんと悪いあやかしでありんすよ。
そこを理解した上で、それでもまた来たいという方がこの世にいるとは、わっちは到底思えないのでありんすよ 」
「…あやかし?そんな事は わかった上で来ている。それでも、なお、お前に会って話したかった。お前ともっと親しくなりたかったんだ」
「…それはわっちを好いているということでありんすか?」
「ああ!」
「わっちは、かなり乱暴なおもてなしを、道真様にはしたでありんす。
それでもなお、わっちのことをずっと思ってくれてたでありんすか?こんなあやかしもどきに?」

 月音は後ろを向き、少しの間、嗚咽をもらしました。
 道真はその月音を、両の手で温かく包み込みます。

「月音…戻ったぞ」
「はい、おかえりなさいませ道真様…っ」

 その夜は小梅と小桃が用意してくれた、温かいごちそうをふたりでいただきました。
 月音と道真は時折、目があっては顔をほころばせて、微笑むのでした。

 そして夜の帳が降ります。
 禿たちは下がりました。 二人は寝巻きに着替えると、 二人で一緒に床につきます。

 その後のことは、 夜の帳にひっそりと隠しておきますね。

「私はこの狐のお宿に来る方法を書物を取り寄せ調べていたが、 全くわからなかった。
死の間際でないと、来れない仕組みでもあったのだろうか」
「本来なら二度も来れないところでありんすよ、ここは。
ただ、 あなたの人生とその生き様を、不憫に思った方がいらしたんでありんすよ。
その方が願って、 もう一度だけ会わせようと、お上の存在が思ったのでありんしょう。
わっちも、もう道真様とはお会いできないと、思ってたほどでありんしたから」

「 それは、 お上の存在とはなんだ?その願ってくれた人とは、一体誰なんだ?」

「そんなの、例え知ったとしても、わっちらにはどうすることもできない、 天上の方々がいらっしゃるのでありんすよ。
願ってくれた者についてなら、喋れるでありんすが。
その方は、だいぶの後の世にて、 菅原道真を演じた演者であったと聞きんした。
その方が、菅原道真が人生の最後に願っていたことを、 叶えてやってほしいと願い申したら、 それをたまたまお上が聞き届け、 今回の再会の場が相なったとか」

「そうなのか…」

「 わっちはここから出られないでありんす。 それこそがお上の取り決め。 わっちはただ、この宿にお客様を招きすることだけ、 許されているのでありんすよ」

「なぜそのような、月音を一人を孤立させるような行いを、お上はするのだ?」

「 それはわっちへの、ある種の忌ましめでありんすよ。わっちは遠い遠い、 本当に遠い昔、ただの少女でありんした。
そこへ狐の妖怪が、わっちの体を乗っ取って、 とある国の王をたぶらかして、国を滅ぼしたんでありんす。
その狐の妖怪が、国を滅ぼしたのは、 お上の命令でありんした。
その狐は、ただただ忠実に、 神の命令通りに国を滅ぼしただけなのに、 最終的にその狐は、罰として、 殺されてしまったんでありんす。
ただ、 その後、神に願うものがおりんした。 そのものは一介の物語の作り手で、『狐に取り憑かれたあまりに、 そのまま殺されてしまった、 あの少女が哀れでなりません。
どうにかして、生き返らせてあげてください』と願ったんでありんすよ。
それでわっちは、狐の尾を斬られて現世に戻り、 ただの女として生きていたこともありんしたね。
その時恋をした男性もいたんでありんすよ。
けど狐の正体がばれたら、 捨てられたでありんす。
お上はそれを咎めて、 わっちをこの空間に追いやったんでありんす。
けど、わっちは、それでも、きつねのお宿に 人を招いては、 淋しい思いを紛らわしているのでありんすよ」

「そうだったのか」
「わっちが、そんなあやかしもどきと知ってもなお、 求めてくれる道真様の、 なんとお優しいこと、 わっちは幸せでありんすね」

「月音」
「 道真様…」

 二人は固く抱き合いました。 けれど月音はこう考えます。

( 道真様は永くない。 あと十日ほどで、 死が訪れる。 そうなったら冥府の者が嗅ぎつけて、 道真様の魂を、冥界に落とすでしょうに。 けど、その間の十日は、 道真様はわっちのものなんだから、 好きにさせてもらうでありんすよ。ね?皆様)

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