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ファンになって18年。ダルビッシュ有に導かれた人生/熊崎風斗【アナウンサーの推し事】

好きなものや、それを愛で、応援する気持ちを表すことばとしてすっかり定着した“推し”。慌ただしい日々を送るアナウンサーにも、きっと毎日の糧になったり、癒しになるような“推し”があるはず。愛してやまないものを、自由に語ってもらう連載企画『アナウンサーの推し事』。第2回は、メジャーリーガー、ダルビッシュ有選手(サンディエゴ・パレドス)の大ファンだという熊崎風斗アナウンサーに話を聞きました。

心を掴まれた「ダルビッシュ有、高2の夏の涙」

——熊崎さんのプロフィール(TBSアナウンサー公式サイト)に「趣味:ダルビッシュ有投手(ダルビッシュさんが東北高2年時2003年~2020年まで視聴可能の試合ほぼ全て見ています)」と書いてあって驚きました! もともと野球がお好きで、ダルビッシュ選手のファンになられたんですか?

熊崎:いえ、ダルビッシュさんがことの始まりです。自分で野球をやったこともなかったし、野球と言えばたまにテレビで試合中継を観るくらいでした。だから、野球よりもダルビッシュさんが先ですね。

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——そうなんですね! きっかけは?

熊崎:私が中学2年生の春、注目の2年生エースとしてダルビッシュさんが特集されているテレビ番組を観たことです。衝撃的でしたね。細身長身の身体から投げられる豪速球、なによりマウンドに立つ佇まいに釘付けになりました。

ダルビッシュさんのいた東北高校はその夏の甲子園で決勝に進出するのですが、惜しくも常総学院に負けてしまうんです。いつも飄々として「甲子園はあくまで通過点」のような雰囲気があったダルビッシュさんが、このときばかりは「先輩たちを優勝させられなかった」と号泣していて。そのギャップに、完全に心を鷲掴みにされました。


——それはグッときますね......。ダルビッシュ選手のピッチングはどうでしたか?

熊崎:ピッチングも他の選手とは一線を画していましたね。高校野球では、ピッチャーの球速に注目が集まることが多いのですが、ダルビッシュさんは速球がサブ的な要素になってしまうくらい、“変化球”がすごかったんです! 高校生ピッチャーとしてはめずらしく、シンカーが決め球で。

あれだけ身体が大きくて、あれだけ速い球を投げられるのに、あの変化球! 試合を見ていくうちに、そういう野球選手としてのすごさも分かるようになって、より一層ダルビッシュさんに惹き込まれていきました。

——高校を卒業後、プロになってからのダルビッシュ選手はどんな活躍をされていたのですか?

熊崎:もう、無双状態でしたよ! まさにスーパーエース。高卒2年目には、日本シリーズで優秀選手賞を取るなど、すでに日本ハム(ファイターズ)のエースとして活躍していました。そして3年目からは5年連続防御率1点台というとんでもない成績。防御率というのは、その選手が1試合投げた場合に取られる点数の平均です。それが1点台っていうことはつまり1試合に2点以上取られることがほとんどないってこと。年にひとりかふたりしか出せないような成績を、5年連続出しちゃったんです!!

さらに、ただ成績を残すだけじゃない、それ以上の存在で。いつも観ていてワクワクするようなピッチングをしてくれたんです。ダルビッシュさんは球種が非常に豊富なので、その日になってみないと「今日の決め球」が何か分からなくて。マウンドに立ってから、一番調子のよい球種を抑え球にするんです。だから毎登板、抑えるスタイルや球の組み立て方が違って、観るたびに「今日はどんな感じなんだろう?」って楽しみでした。

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——へぇ! じゃあ観戦するときは、まず球種に注目されるんですね。

熊崎:そうですね。私はもうダルビッシュさんを見過ぎてるので、最近は最初の5球くらい見ればなんとなく「今日はこんな調子だな」って分かるようになってきました(笑)。

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忘れられないあの日


——長くダルビッシュ選手を応援してきた中で、印象に残っている試合はありますか?

熊崎:メジャー挑戦直前、日本最後のシーズンとなった2011年の7月20日、楽天の田中将大投手(東北楽天ゴールデンイーグルス・当時)と投げ合った試合ですね。球界を代表する投手同士、かつその年熾烈なタイトル争いをしていた2人の最後の直接対決でした。私は当時大学生で、東京ドームで直接観戦していたんです! ダルビッシュさんが完投勝利して、雄叫びをあげた姿は強烈に覚えています。

——日付まで覚えてらっしゃるのはすごいですね……! 日本球界に残る名勝負、観戦がうらやましいです!

熊崎:もうひとつ、2013年4月2日、メジャー2年目シーズンの初登板で、9回2アウトまで完全試合を記録した試合がありました。その日、私はTBSに入社した2日目で、新入社員研修中だったんです。社屋見学するという研修を受けながら、至る所にあるテレビが気になって仕方なくて(笑)。

最後、ちょうど地下の郵便局で、テレビが見えるときに打たれたんですよ! 本当にショックで、でも研修中だから声も出せなくて……。あの日の試合も忘れられません(笑)。

——ははは、それは忘れられないエピソードですね。今でもメジャーの試合の中継はチェックされているんですか?

熊崎:はい。でも最近は、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)が大活躍しているから、BS NHKの中継が大谷選手の試合ばかりになっているんです。もちろん大谷選手はすごいけど、私はダルビッシュが見たいんですよ!「ダルビッシュさん投げてるのに、中継ないじゃん!」ってフラストレーションがたまっています(笑)。

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野球界の発展を想う、ダルビッシュマインド


——他にも、ダルビッシュ選手の魅力やすごさってありますか?

熊崎:常に変化を恐れないで、向上心を持ち続ける「選手としてのすごさ」もあるのですが、私はダルビッシュさんの「視野の壮大さ」を尊敬しています。いつも野球界全体の底上げを考えて、様々な発信を続けているんです。

過去の野球界では、自分の技術は隠すのが当たり前でした。ピッチャーの調整法やボールの握りは特に秘匿事項。でも、ダルビッシュさんは自分のノウハウをどんどん公開されています。自らの立場を守るよりも、「後を継ぐ後輩たちに大きく育ってもらいたい」「日本球界がもっと良くなってほしい」と考えている。そのマインドが素晴らしいですよね。

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——素敵ですね。ダルビッシュ選手の影響で定着したこともあるのでしょうか?

熊崎:そうですね。ダルビッシュさんはもともと細身長身でキレのあるボールを投げていたんですが、2010年のオフから翌シーズンに向けて筋肉アップのトレーニングを始められたんです。当時日本の野球界では、ピッチャーが筋肉をつけすぎることは、「しなやかさが失われる」などの理由でタブー視されていました。なのでバルクアップには批判の声もあったのですが、ダルビッシュさんは自身の考えを貫いた。結果として投げる球は凄みを増し、彼はパワーアップしたんです。今では日本でも、ピッチャーのウエイトトレーニングが主流になってきていると思います。

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——ダルビッシュ選手の影響力、すごいですね……!

熊崎:そうなんです。大谷選手や田中投手、前田健太投手(ミネソタ・ツインズ)など、日本人でスーパーエースと呼ばれるような投手はみんな、間違いなくダルビッシュさんの影響を受けていると思います。後輩のみなさんに慕われているところも素敵ですよね。

プロフェッショナルな姿勢を吸収して


——ダルビッシュ選手から熊崎さんご自身が影響を受けていることはありますか?

熊崎:今、野球中継の実況も担当しているのですが、それは完全にダルビッシュさんがいたからでしょうね。ダルビッシュさんを中心にして、どんどん自分の宇宙が広がっていった感覚があります。

——熊崎さんもダルビッシュ選手のように、後輩に技術を指導する場面もあるのでしょうか?

熊崎:「自分のときはこうだった」と話すことはありますが、“教える”という感じはありません。人から言われたことをやったり、誰かのアドバイスを聞いたりするだけじゃなくて、「自分の責任で考えて行動する」という姿勢が大切だと思っているので。

プレーに自らのクビがかかっているプロスポーツ選手とは違って、アナウンサーは会社員です。でも、チームや業界の中で、自らポジションを確立していかなければならないところは、プロ選手と共通していると思っているんです。

特に野球はひとりがスターでも勝てない、チームプレーの競技。各々が自分の役割を全うする「プロフェッショナル」な姿を見ていると、勉強になることがたくさんありますね。

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人類一の男、ダルビッシュ

——今日は熊崎さんの「推し」っぷりがよく伝わってきました! ちなみにダルビッシュ選手にお会いされたことはあるんですか?

熊崎:ないんですよ。会えたら嬉しいですが、雲の上の存在でいてほしい気もしますね。ずっとファンだから、お会いしたらどうなっちゃうのか……(笑)。間違いなく人類で一番緊張する人だと思います!

——ははは。じゃあ、ダルビッシュ選手の試合を実況するのはどうですか?

熊崎:それはぜひやりたいですね! 話したい情報があふれてくるだろうな。視聴者に伝えるよりも、自己満足に走っちゃう可能性があるので、そこは抑えないといけないですね(笑)。

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熊崎 風斗(くまざき かざと)/TBSアナウンサー。担当番組は『ひるおび!』『Nスタ』など。ラジオ番組では『アフター6ジャンクション』に月曜パートナーとして出演中。2013年入社。

Text:水沢環 Photo:持田薫 Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年11月24日に公開した記事です)