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拝啓、永遠の季節へ

思い返すとやけに眩しく光っている記憶がある。世界の全てがキラキラと輝いて見えていた季節がある。あの光は何だったのだろうか。あの光の正体こそ青春と呼ばれるものではないだろうか。そしてあの青春の光が照らした季節は今尚記憶に鮮明に焼き付いている。もし永遠というものが存在するのであれば青春の光が照射したあの季節こそが永遠なのかもしれない。どれだけ時間が経とうとも、どれだけ街が移り変わろうとも、その季節の輝きは色褪せることなく記憶の中で光を放ち続けている。そして青春の光が照らした季節の輝きは同じくして、その記憶を持つ人の行く先を照射し続ける。これでもう迷う事は無い。選んだ先の未来が暗闇に包まれていようと。あの記憶が行く先を照らしてくれている。人は記憶があるからこそ未来に進んでいける。拝啓、永遠の季節へ。未来へと歩み出した私より。

fromis_9のメンバー、チャン・ギュリが5thミニアルバム『from our Memento Box』を以てfromis_9としての活動を終了、2022年7月31日にグループから離れる事となる。そんな彼女のfromis_9としての最後の作品となったこの『from our Memento Box』は、fromis_9という"青春"を永遠にする手段であり、fromis_9がこれからも変わらずfromis_9であり続ける事の"約束"であり、これから新しい旅路へと歩き出す9人の未来を照らす灯台のような1枚になっている。


以前書いた「Stay This Way」のレビューにて、この曲は祈りの曲であると言及した。永遠に一緒にいれない事に気付いてしまった、だからこそ一緒にいたいと願う歌であると。

しかしチャン・ギュリの脱退の報告を受けて、その認識は私の中で少しばかり変化したように思う。この「Stay This Way」は願いの歌であるのと同時に"約束の歌"だったのだと。違う道へと進む事になってもこの絆だけは変わらない、それを誓う約束の言葉としての「Stay This Way」。9人で走り抜けた永遠の季節を記憶に刻む言葉としての「Stay This Way」。この言葉があるからこそ、何処に行っても繋がっていける。「Stay This Way」にはそんな想いがきっと託されている。

更に言えばこの「Stay This Way」がギュリの最後の活動曲として、そして音楽番組が有観客で声出しの声援が可能になったタイミングで(コロナの再拡大が続く中滑り込みで)用意されていた事も非常に感慨深い。この日、メンバーだけでなくfloverともその約束は交わされた。メンバー、flover全員が「Stay This Way」と歌う事によって交わされる約束。きっとこの先、この日の約束が背中を押してくれる瞬間が数多く訪れる事だろうと思う。


また「Stay This Way」というタイトルは、それぞれが選んだ幸せを肯定する言葉でもある。5年もあれば人は変わる。進みたい方向だって変わるだろう。それぞれの幸せを考えれば「Stay With Me」が必ずしも正解ではない事が往々にしてある、それが人生だ。しかしそれを認められない時もある事も確かだ。別れを受け入れるのには痛みが伴う。それぞれの幸せを思い遣るにはそれなりの経験も必要だ。だからこそこの曲は「Stay With Me」ではなく「Stay This Way」というタイトルなのではないだろうか。例え歩む道が別れようと、それぞれの幸せを思い遣り、今ここにある絆だけは変わらないと誓う「Stay This Way」には「成長型」というコンセプトを背負うfromis_9の"成長の証"とも言うべき美しさが宿っている。


他の収録曲にも「Stay This Way」と同じメッセージが込められている。過去を肯定し、今を受け入れ、未来へと歩き出す、この『from our Memento Box』に刻まれているのは fromis_9の成長と覚悟の美しさだ。

ジホンが参加した「Up And」では、最後に<答えは私が決めればいいから>と歌われる。成長した彼女達はこれからも答えを自ら選び取っていくだろう。幸せが待つ未来に向かって。この曲のような軽やかなステップを踏みながら。堂々とした姿でそれぞれの花道を歩いていく9人の姿は美しい事だろうと思う。そしてこの<答えは私が決めればいいから>という言葉が、一人違う道を歩き始めるという答えを出したギュリに対するジホンの餞の言葉であったとするのであれば、それはとてもジホンらしいなと思う。

「Cheese」という曲では<必ず笑わなくてもいいよ/自然にね/全ての姿を大切に>と歌われる。人生において笑顔の瞬間だけが大切ではないと彼女達は知っている。幾度とない困難と大きな決断を乗り越えてきたfromis_9はきっと我々の知らない所で多くの涙を流してきたのだろうと思う。それでも彼女達はこの曲でその悲しかった瞬間さえも特別で大切なものだと肯定してみせる。我々の記憶のフォルダにはスマホの画像フォルダに残されているデータ以上の瞬間が記録されている。楽しい瞬間だけではないのが人生だ。全ての瞬間が特別であると肯定する、肯定する事ができるこの曲にはやはり彼女達の成長と覚悟の美しさが宿っている。

「Rewind」も過去を肯定し、今を未来へと託す歌だ。我々は目を閉じればいつでも時を巻き戻す事ができる、青春の光が照らすあの季節の記憶を。我々は進んでいける、あの記憶が照らし続けるこの先の未来へと。「Rewind」の最後では新しいタイムラインが動き始める。道は分岐していく。それぞれの未来に向かって。しかしながらその道は9人が出逢った運命、fromis_9という1本の道から分岐していく道である。過去があるからこそ未来があるのだ。

そして「Blind Letter」では未来の自分から手紙が届く。宛名は無い、未来はどうなるか分からない。だけど何故か心を惹かれている。見慣れない文字でぎっしりと埋められたその手紙に。どうなるか分からない未来に希望を持って歩き出せるのは記憶があるからだ。あの青春の季節が未来を照らしているからこそ、その1歩を踏み出す事が出来る。彼女達は歩き出す、まだ見ぬ未来の自分に出逢うために。

過去は過去ではない。過去は現在に繋がっていて、現在は未来に繋がっている。過去があるからこそ未来がある。『from our Memento Box』は過去を振り返る事によって、今を受け入れ、未来へと歩き出すためのアルバムである。これからそれぞれの未来に向かって新しい1歩を踏み出す彼女達にとってこれ以上の作品は無いと思う。『from our Memento Box』はまさにfromis_9にとってもギュリにとってもfloverにとっても特別な作品になる事だろうと思う。私にとってもそうだ。


最後に『from our Memento Box』のモチーフになっている葉が欠けたようなデザインのクローバー。約束の象徴でもあるクローバー、その約束の欠片はきっとギュリの手に渡されているのだろう。そうであったら良いなと思う。

葉の欠けたようなデザインのClover


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