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好きな英単語について語る

「好きな言葉は?」

誰しも一度は聞かれたことがあるだろう。


では、好きな「英単語」について考えたことがあるだろうか?

それぞれ考えてみてほしい。




ここで注目してほしいのは、好きな言葉と好きな英単語が「一致しているか」という点だ。

例えば、好きな言葉が「ありがとう」だとする。
好きな英単語はそれを英訳した "Thank you" だろうか?



私はまったく異なる。

しかし、今回のnoteでは、好きな言葉については正直なんでも良いので私の好きな言葉はここでは割愛する。

語りたいのはあくまでも好きな「英単語」




私が好きな英単語は "Midas touch" という語である。
日本語では「ミダスタッチ」となるが、私の好きな日本語はこれではない。

"Midas touch" とは、お金を稼いだり、金銭的な成功を収めたりする才能を意味する英語表現だ。

まったくこの単語を知らない人間は、おそらく推測しようにも難しいだろう。
「ほにゃららのタッチ」で、なぜ金銭に関する意味になるのか。
これこそが、私がこの英単語を好きな所以なのだ。


英語をそれなりに勉強してきた人であれば、"Midas touch" の頭文字の "M" が大文字であることに着目できたのではないだろうか。
この単語において重要な点だ。

そう、"Midas" は「固有名詞」である。


"Midas" は、ギリシャ神話のミダス王の名前。
日本語では「ミダス王」だが、英語の発音では「マイダス(mīdəs)」と発音するので要注意。

ミダス王は、プリュギアの都市ペシヌスの王で、触ったもの全てを黄金に変える能力のため広く知られている。
この話が基になっているため、"Midas touch" は "golden touch" とも表現される。

触れたもの全てを黄金に変えるミダス王のように、何をやっても金儲けできるような幸運があるというのが "Midas touch" の意だ。




私がこの単語を好きな理由は、単語を真に理解するにあたり、単語の背景の物語についても知る必要がある点にある。

"Midas touch" = お金を稼いだり、金銭的な成功を収めたりする才能

と丸暗記したとしても、この単語を本当に理解したとは言えないだろう。
より深くこの言葉を知るためには、ミダス王の神話についても知識を深める必要がある。

私はこういったストーリーが絡む言葉がとても好きだ。




"Midas touch" とは少し毛色が異なるが、同じ理由で、日本語の忌み言葉を避けるために生まれた縁起の良い言葉が好きだ。

忌み言葉とは、お祝いやお悔やみの場面など、ある特別の場で避けられる言葉のことを指す。

例えば、「する」は博打でお金が無くなる意味の「擦る」や、財布やお金を盗む意味の「掏る」に通じるため、「するめ」を「あたりめ」と呼ぶ。
「終わり」ではなく、「お開き」と表現する。

こういった具合に、縁起が悪い忌み言葉を口にしないように、言い換えの表現というものがある。

「言霊」という言葉があるが、悪い言葉が現実にならないようにという思いを込めて、言い換えの表現が作られたのだろう。
この日本人の心配りの過程に想いを馳せるだけでも温かい気持ちになる。

こういった言葉も、"Midas touch" 同様に、ただ言葉を「知っている」というだけでは、真にその言葉を理解したことにはならない。

イカを乾燥させたものを「あたりめ」と呼ぶ。
という単なる物体とそれに対応する言葉を知るのみで留まらず、そこからさらに一歩踏み込むことで言葉の深みが増す。




言葉、それ自体はあくまでも記号でしかない。
我々人類の思考を可視化し、他者に伝達するための道具。
それ以上でもそれ以下でもない。

しかし、そのツールである言葉には、多くの歴史や物語、そして魂が宿っている。

だからこそ私は、言葉それ自体の意味を知って満足するのではなく、言葉の持つバックグラウンドまで知った上でその言葉を使用したい。

それが言葉を扱う生き物である以上の責任ではないかとも思う。




なんてことを、この曲を聴きながらふと思った。

Netflixオリジナルドラマ、『エミリー、パリへ行く』(原題:『Emily in Paris』)の劇中歌『Mon Soleil』。

この曲のラスサビ前の一番盛り上がる部分の歌詞に、件の "Midas touch" が登場する。

So long, la vie en rose
Even with the Midas touch, the things we love don't always turn to gold
But if we never try, we'll never know what we could be

Ashley Park - Mon Soleil (from "Emily in Paris" Soundtrack) の歌詞 |Musixmatch


実はこの部分の歌詞、先に載せたNetflixの公式動画では、"Midas touch" の部分の字幕が "mighty stars" となっている。

ここまでで、「ミダス王」の話について理解している皆さんなら、歌詞の細かい意味を考える間も無く、いずれが正しいかすぐに判断できるだろう。

"mighty stars" or "Midas touch" 、どちらが後に続く "turn to gold" と相性が良いか。

確かに発音は似ている。

そして皮肉なことに、ちょうどこの部分で歌い手のAshley Parkは後ろを向いてしまうので口元で判断もできない(笑)




ちなみに、先に解説した通り、現代の英語において "Midas touch" は良い意味で用いられる言葉だが、当のミダス王はこの能力によって苦しめられた。

触れる物を全て黄金にする能力を得たミダス王。
そう、「触れるもの全て」が黄金になってしまう。

莫大な富を手に入れ大喜びしたのも束の間、手に取った食べ物まで黄金になってしまい、ミダス王は飢えに苦しんだ。

すべてを黄金にする能力は、強欲なミダスへの罰だったのだ。


てなわけで、"Midas touch" をお持ちの皆さんはお気をつけ遊ばせ。


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