アラサーオタク女と初めてのオタク婚活パーティー
オタクの婚活パーティーは地獄だと聞く。
結論から言うと、地獄ではなかった。
地獄では、なかった。それだけだ。
最大三十人規模とのことなので、まあ男女十人前後ずつかな、と思っていた。
大間違いだった。
行ってみれば小さな会議室に、私を入れて女性は二人、男性は四人。
カウンターに並べられるプラコップとペットボトルのジュース。
テーブルにはカゴに入れられた小分けのお菓子。
公民館で行われる児童会を思い出させた。
6900円払って男性は二人としか話せない、連絡先を交換できないのか、と思うと恐ろしい話である。
女性は300円で4人のオタク男子の連絡先が手に入るわけだが。
欲しいか?……いやそのために来てるんだけども。
二つのテーブル席に女子を一人ずつ振り分け、男子を二人ずつ配置する。
最初に私の目の前に座ったのは、害のない人間慣れをしたオタクだった。
清潔感はある、あるが、何もかもが婚活に足りない。
婚活パーティーの参加は初めてだが、その私にも足りなさはわかった。
英字Tシャツ、グレーのパーカー、無造作ヘア、無造作眉毛、早口。
完璧だ、完璧なよそ行きのオタク君だ。
私は少し感動もしていた。
ちなみにこの時使われる無造作とは、何の手入れもしていないという意味である。
パーカーと英字Tシャツが他人に会う服装だと認識しているあたり、筋金入りだ。
知り合いにはなれても、親密にはなれない。
早速私は心にATフィールドを張った。
その隣の地味だが風間俊介に似ているとも言えなくもない男性は、この場において一番婚活パーティーっぽかった。
紺のジャケットと白シャツ。
美容院で整えられたであろう頭髪、細い眉、ゆったりとした喋り方。
この場において優先すべきはこちらの男性だと直感した。
しかし。
場を仕切っているのはオタク君であった。
どうして。
とはいえ婚活パーティー初心者の私が彼から主導権を奪えるはずもなく、なすすべなくオタク君の早口な仕切りに流されてしまうのであった。
悔しい、私が喋りたいのは薄めて薄めた風間俊介なのに……。
当然オタク君は目の前の女子、つまり私に話を振ってくれるので、それをオタク君ではなく風間俊介に打ち返す。
なにせ私はオタク君の英字Tシャツと無造作眉毛にしか意識が向かないのだ。
オタク君が悪いんじゃない、君ともっと別の形で出会えていれば、お友達にはなれたかもしれない。
でもここは婚活、婚活パーティーなのだ……パーカーで来てはいけないのだ……。
最近見たアニメや、好きなゲームについてざっくり話をして、最後に結婚や恋愛について聞いたところでタイマーが鳴った。
連絡先の交換を促すアナウンスに従い、LINEを交換した。
オタク君からはウマ娘のスタンプが送られてきた。
そういうところだぞ!
席替えで立ち上がったときにわかったのだが、オタク君はダメージジーンズだった。
フルコンボだドン!
次の二人組も、二人とも眉毛が無造作だった。
ってまたパーカー!ボーダーの!パーカー!!
バカ!グレーのパーカーはよそ行きのお洋服じゃないの!アラサーだろ!わかれよ!
ユニクロで売られているグラフィックTシャツにパーカーの30代男性。
仕事はお堅い職業だった。私にとって、婚活においていいところがそこしかない。
もう一人はちょっと斜に構えた感じの、髪も美容院に行って……でも眉毛繋がってる!って感じの……ちょっと取っつきにくい人……。
正直あまり印象がない。
どっちも特にお近づきになりたくはないなと思いつつ、残り40分あるのでとにかく会話をした。
ボーダーパーカーの男性がこれまた仕切り、私もめんどくさいので任せっぱなしにしていた。
気まずくなるのは避けたかったので、先ほどと同じように目の前の男子から受け取ったパスを斜め前に返す感じで、なんとか乗り切った。
好きなゲームの話になったときに「誰も知らないゲームなんだけど」と本当に誰も知らないゲームをオススメしてきたボーダーパーカーさんには、拍手を送りたい。
こ、これは、オタクがわずかな希望で仲間を求めてチャレンジする精神かつちょっとマウント取りに行く姿勢……!
しかしここは婚活パーティー、どうぶつの森やポケモンでいいのだ……まあオタク婚活だからFFとかテイルズでいいのだ……ジャブを打て!
これは婚活とは全く関係なく、私の経験則かつ持論なのだが、童貞はジャブが打てない。
いきなりストレートをブッこんで来る。
そして相手はいきなり殴られてきょとんとしてしまうのだ……。
目の前の男性が童貞かどうかはともかく、それに準ずるものだと思っている。
よそ行きの服がグレーのパーカーの男はだいたいそうだ(強い偏見)。
私も人生のほとんどをオタクに捧げてきた身なのでパーカーは好きだ。高校生くらいまでパーカーを着て地元のアニメショップに通っていた。
成人してからはコスメを買い、ファッション雑誌を読み、Twitter以外の場でも人間と交流を続けてきた。
だからわかる、こいつらは何も努力をしていない……!
人間になろうとしていない……!
それではいけないと思い、婚活パーティーに来たのは素晴らしいと思う。
しかし、しかし下調べはしておけ……!
婚活パーティーに最適な服装は調べればすぐわかる。
私も調べた。色々調べた上で準備をした。
この婚活パーティーの場において、風間俊介以外に人権はない。
そう強く感じたところで、タイマーが鳴り、児童会は終わった。
帰りにパーカーの二人からこの後ご飯でも、と言われたが、本当に用事があったためそそくさと帰らせていただいた。
心残りはテニプリを熱く語っていたもう一人の女性で、彼女のTwitterアカウントを教えてもらえばよかったなと後悔している。
それぞれに一応、「今日はありがとうございました」とメッセージを送ったところ、これまたパーカーたちからしか返事が来なかった。
オタク君とは、なんだかんだやりとりが続いている。
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