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危うい保険営業員の一言

 社会人なら一度は見たことがあるのではないか?自分の会社のオフィスに保険営業員が来て、ティッシュやチラシを渡しながら、保険の勧誘をする光景を。コロナの影響で、しばらくは保険営業員を見かけなくなったが、ここ最近になって再開したらしい。最近その光景を見て思い出したことがある。

 私が社会人2年目くらいの時だ。私が勤務しているオフィスにも保険営業員がチラシを配りながら勧誘していて、その中の私と同じぐらい歳の女性の営業員にやや強引につかまって、保険について相談することとなった。

 そこまで細かく覚えているわけではないが、紹介された保険というのは恐らくよくあるタイプである癌や三大疾病、入院費用が1日につき10万円出るというような、月々数千円ほどの掛け捨ての医療保険だ。

 営業員からは保険にいくらかかるかということや三大疾病や癌にかかる確率がどの程度あるか、というような説明を受けた。その中の説明の一つで、保険に入るとどのようなメリットがあるか、というものがあった。要約すると、30代、40代、50代となると病気にかかる確率は高くなり、その分医療費を高くなる可能性もある。また、40代の頃に保険に入るよりも今保険に入ると月々これだけの値段でこれだけの保険に入ることができるというものだ。問題は30代、40代になるにつれて医療費以外にもこれだけの費用がかかります、という説明に入った時だ。

 「この保険では、大体このようなライフプランを想定しています。30歳前後で結婚してすぐ子供が1人か2人生まれて、40代、50代で子供の学費に年間これだけ費やして、場合によってはそこに親の介護なども加わって、子供が大学を卒業して社会人になった後、しばらくして65歳ぐらいで定年を迎えて、その後はセカンドライフを送ります。」

 大体このような内容だったと思う。営業員に「結婚の予定とかはありますか?」と聞かれた時に、その予定もなかったので「特にないです」とか答えていたと思う。その際に、何かの流れで営業員がこんなことを言った。

 「人として生まれたら、こういう人生歩みたいと思うじゃないですか?」

 私はこの発言を聞いた時に、この言い方は少し危ういなと感じた。何故なら誰もがそのような人生を望んでいるわけではないし、そのような人生を歩みたいとも思っていない自分は普通ではないのでは?と思ってしまうからだ。
 また、そのような人生を望んでいる人に対して言った場合にも「そういう人生を歩むのが人として当たり前」という意識をより強くして、自分の人生がこのライフプランとギャップが出始めた時に、「当たり前に歩めると思ってたのに何故?」というように思い悩むきっかけになってしまうからだ。

 別にそのような人生を歩むことに対して、過度に羨ましがったり、平凡な人生だなと蔑んだ理しているわけではない。このような人生を歩むことができたら、それなりに立派なことだし、それなりに幸せに離れるとは思う。しかし、営業員の言葉を拡大的に解釈してしまうと、

 そのような人生こそ理想で、立派で、幸福だ

 というふうに聞こえてくる。自分で勝手に拡大解釈しているだけなので、多少飛躍しているが、この「こそ」というのが個人的に気に入らない。昔はどうか知らないが、今は人それぞれ多様な生き方が存在する。そして、人それぞれそれなりに人生を謳歌している中で、「理想的なライフプランはこれ」と一々他人が言ってくるのは、そう言った人々にとっては甚だ鬱陶しいものでしかない。
 「会社に定年までいるつもりないから30歳ぐらいで会社辞めて、そこから起業して大金持ちになって40歳ぐらいで引退して、そこからは余生にするわ。奥さんとか子供とかいても邪魔くさいだけだし、家庭とか持たないで自分のためだけに一生遊んで暮らしまーす。」というような生き方も本人が謳歌しているのであれば、それでいいのではないかと思う。

 日本の男性の平均初婚年齢は1995年から2020年にかけて、28.5歳から31歳に上昇している。男性の生涯未婚率は1970年から2020年にかけて、1.7%から25.7%にまで上昇している。(参照:日本では晩婚化・未婚化が進行中!原因やメリット、国の支援策を解説
 そうなると、必然的に「30歳前後で結婚してすぐ子供が1人か2人生まれて、40代、50代で子供の学費に年間これだけ費やして、場合によってはそこに親の介護なども加わって、子供が大学を卒業して社会人になった後、しばらくして65歳ぐらいで定年を迎えて、その後はセカンドライフを送る」人の割合は減っている。

 なので、これからはライフプランに関して他人がとやかくいう時代ではないと思う。しかし、このようなアイフプランを送っている人ももちろん大多数いる。保険営業という仕事である以上、客に自分の今後の人生やかかってくるお金をイメージさせる上で、ライフプランをある程度イメージさせることは効率的なのだろう。そこは否定しない。だから、もし時間が戻せるのなら、あの営業員にこう返したいと思う。

「このライフプランはあくまで一例ですよね。」

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