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【掌編小説】カンフーチェア
映画監督さんはため息を吐きました。
「困ったなあ。今度のアクション映画はアクションが難しすぎる。適任のスタントマンが見つからないよ」
頭を抱える監督さんにスタッフさんが話しかけます。
「監督さん、いい椅子を持ってきましたよ」
「椅子だって? 椅子に座っている余裕なんて今はないよ」
「違います。この椅子は『カンフーができる椅子』なんです」
監督さんはスタッフさんが言っている意味が分からなくて首をかしげました。
困惑する監督さんの様子を見てスタッフさんはニヤリと笑います。
「さあ、これがカンフーができる椅子です」
スタッフさんは一つの椅子を持ってきました。
「監督さん見てください」
スタッフさんが指示を出すと椅子はダンスを始めました。足でリズミカルな音を鳴らす軽快なタップダンスです。
唖然とする監督さんを余所に椅子はそのまま、側転、バック転。信号機に上って大車輪までして見せます。
「なんてこった! なんなんだい、この椅子は?」
「監督さん。この椅子はカンフーの達人ですからこれくらいできて当然なんですよ」
「それにこれだけじゃありません。銃の扱いだって得意だし、女装も平気。ヘリコプターだって乗りこなしてしまうんですよ」
「すごい! なんて優秀なスタントマンなんだ!」
「極めつけは人件費がかからないことです。ほら、見てください」
ぐるぐると大車輪をしていた椅子は手を離して、びゅーん。
地面に落下して粉々になってしまいました。
「なんてったって、一回のアクションで必ず壊れるんだもの」
『カンフーができる椅子』は一つ555円で好評発売中です。
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