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小説のことを私は何の迷いもなく好きだと言える。 自信や情熱などではなく、逃避や降参の思いだ。自分にはなにもない。個性や情熱やテーマがなにもない。『なにもない』すらなかった。 遠い憧れであるものは実体を掴めない。だから私は小説を好きだと言える。 そんな月並みの好きをもう一つ。 クラスメイトの男の子。 接点は、同じクラスであることだけ。どこに憧れたのかも言葉にできない。一挙一動を何故か気にしてしまう。あやふやなままにときめいて過ごした三年間。 結局、三年間そのままだ
私はとても弱い人の面倒を見ていました。 夏の日差しも、冬の空気も、彼の柔肌はそれを透過して負荷を蓄積してしまうのです。堰き止めておける負荷の量は多くはなく、そしてその堤防が決壊することは命の危機と同じことでした。 彼はとても弱く生まれたのでした。 気持ちの昂ぶりもいけません。彼は喜びも哀しみも笹舟を川に流すように見送ります。その切なさにはとうに慣れたようでした。 そんな彼も、もう終わりました。 最後の時、彼は教えてくれました。 春の季節が好きだったと。 ゆっく