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スーツを通したこの身体は、まだ血が滞っている。 外気に触れずとも、私の手足は低い彩度で無防備だ。 手のひらを見つめて、指を折り、音のない軋みを聞く。 爪を見る。乾いている。 青缶から取り出したクリームを指の背に乗せた。 親指で人差し指と中指を撫でるようにして拳を包み込む。 押しつぶされたクリームが延ばされていく。 溶け馴染む油分に包まれ、熱とは異なる温かみを感じた。 その感覚は一瞬の幻影で、それを確かめたい幽かな衝動が、私の手をゆっくりと滑らせる。 手を握
靴を脱いで膝を抱える。 スーツに皺が寄ると一瞬の躊躇があったが、余韻も残さず消えた。 車の中の狭い座席で、私はフロントガラスに打ち付ける雨粒を目を細めて見ていた。 雨が透明を歪めるだけで閉塞感がずっと増す。夜にはまだ早いが日は薄い。 私は寂しさを感じていた。 運が悪かった。 この日、遠方のクライアントからクレームが入った。本来の地区担当の阿部さんは有給で、代わりにたまたま一番近かった私が対処する羽目になった。 天気が悪いという予報も出ていたが、対処しないわけに
ある日、僕のスーツから蔓が伸びていた。就活に失敗してから壁に掛けっぱなしのスーツだ。その下には、同じ内容が書かれた履歴書がゴミになって散らばっている。 いい環境ではないはずだが、この植物が育つには問題なかったようだ。おかげでスーツがもう着れなくなってしまった。ふてぶてしいやつめ。 ありがとう……。 仕方がないから毎日水をあげていた。どう仕方がないのかは、聞かれたら困るけど、とにかく、今の僕には仕方がなかった。 その植物はみるみる大きくなって、花が咲いた。無職の僕でも