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掌編小説

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#風土

【掌編小説】鯉の池の沈没船

 祖母は極端な人でした。 「残さず食べなさい。よく食べる子が良い子なのよ。よく食べない子は悪い子ですからね」  祖母がご飯を出す時は、必ずそう言って出してくれます。過剰に出されることもないのですが、毎回そう言われるので、もし食べきれなかったらどうなってしまうのかと私は怯えていたのです。  今となってはどうもしなかっただろうとわかります。せいぜい、計画性のないお菓子について小言を言われる程度でしょう。  しかし、やはり私は怖かったのです。  祖母に嫌われてしまうことと、祖母を悲

【掌編小説】おにごっこ

 いや、そんな畏まった感じ出さんといてや。村の儀式とか言ったってそんな怖い風習とかやないから。魔除けみたいなもんよ。婆ちゃんも笑ってたやん? まあ、あの笑い方は癖やからさ。  子供の頃、鬼ごっこってやったやろ? まあ、色鬼でもケイドロでもなんでもいいわ。鬼がいる遊び。うちの村ではな、遊び終わると鬼はその子どもに一匹取り憑くって言われとるんよ。鬼役を皆で演るんやから一匹くらい宿ったってお話としてはおかしくないやろ?  もちろん子どもが演じて宿った鬼やから大した悪さはせん。でも、