「サインの世界」展のご紹介
ピクトグラムを中心とした展覧会が、2020年9月24日からドイツデュッセルドルフ近郊、デューレン市のレオポルド・ホッシュ博物館で開催されている。
ピクトグラムとは一般に「絵文字」などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)の1つである。
…ピクトグラムの特徴を簡単に述べると、「事前の学習なしでも、即時的、国際的にわかる伝達効果となる...」(太田幸夫著『ピクトグラム(絵文字)デザイン』より)となる。
日本では、1964年の東京オリンピックの開催時に、外国語によるコミュニケーションが難しかった日本人と外国人のために、デザイン評論家勝見勝氏の指導のもと、多くのデザイナーが参加して開発された。その後、空港や駅の施設案内などにも、広く使われるようになった。
これまでも多くのピクトグラム展がヨーロッパ圏でも開催されてきたが、ヨーロッパの作家中心の展示であった。今回は日本より当noteを始めた太田幸夫とドコモi-mode用にemojiを開発した栗田穣崇が海外から初めて紹介された。
サインの世界:
ピクトグラム、記号としてのサイン、emoji
レオポルド・ホッシュ博物館 2020年9月24日- 2021年2月7日
フライブルク現代美術館 2021年3月27日- 2021年9月12日
今日、3000以上ものユニコード化された携帯電話用の絵文字はソーシャルネットワーク上に溢れている。この絵文字は、現在では世界各国で「emoji」と呼ばれ、グローバル化した世界の中で言語の壁を超えるユニークな感情表現の方法として使われている。
今回の展覧会で取り上げられた作品群は、それぞれの時代の課題にどのように取り組んできたのか?表現の可能性を広げたのか、それともテンプレートなどを使うことで表現を制限したのだろうか?といった現代の絵文字(ピクトグラム)からemojiへの展開について、どのような考察、目的、希望があるのかという問いを追求するものだ。
1. アイソタイプ
1925年、「赤いウィーン(オーストリア社会民主党がウィーン市議会で初めて与党となり、民主的に統治を行った、1918年から1934年までの同市のニックネーム)」の時代、経済学者のオットー・ノイラートは教育を受けていないウィーンの大衆に複雑な社会経済の事実を伝えるため社会経済博物館を設立した。
オットー・ノイラート、妻のマリー・ノイラート、画家のゲルト・アルンツと彼らのチームは、上記の目的のために、「図による教育学」を開発した(後のアイソタイプISOTYPE: International System of TYpographic Picture Education)。彼らが示した方法は、科学的な客観性を主張する一方で、芸術的表現の自由を主張するというアンビバレンツ(両面性)な展開をみせた。
2. ミュンヘン・オリンピックのピクトグラム
アイソタイプの両面性のあるアプローチは、オトル・アイヒャーの作品と比較すると特に明らかである。1972年、彼がミュンヘンで開催された夏季オリンピックのために開発したピクトグラムのグラフィックシステムは、厳格なデザインルールと機能性に基づいている。彼はナチズムを経験したので、感情的な視覚言語をあえて拒絶した。
一方、ワルヤ・ラヴァター、パティ・ヒル、ヴォルフガング・シュミットなどのアーティスト達は、オトル・アイヒャーの合理的なピクトグラムに対して、反動的に遊び心があり、より親しみやすいデザインをした。
3. LoCoSなどの視覚言語
それぞれのアプローチの背景には、私達がどのように環境を知覚し、記号を通してそれらを享受することができるかという考え方が読み取れる。その記号を、国境を超えて考えや意見を伝え合うことや、理解を追求するために開発した人々もいる。太田幸夫は、絵文字システムに留まらず、独自の文法と拡張可能な絵ことば・絵文字セット=LoCoSという視覚言語を構築し、普遍的な理解を促進するグローバルなコミュニケーション・システムを開発した。
尚、似たような試みをしたティモテ・インゲン・ホーズもいる。
4. emoji
現在、emojiについてはその可能性への疑問や不明瞭さへの批判を受けつつも、Unicodeコンソーシアムは無償でそれらを提供し、世界中で使われているという状況だ。また、emojiの世界では無名性が高く、1999年にi-モードのために最初のemojiセットを開発した栗田穣崇のような先駆者でも、その名をユーザーに知られていない。本展では、アート作品の制作だけではなく、コミュニケーションのデザインも手掛けたゲルト・アルンツのようなemoji作家も紹介している。
出展デザイナーとアーティスト:
オトル・アイヒャー/モーリッツ・アピッヒ/ヨナス・グリュンヴァルト/ブルーノ・ヤコビー/ゲルト・アルンツ/ヨハネス・ベルガーハウゼン/イルカ・ヘルミグ/カルステン・デ・リーゼ/アンチェ・エフマン/ハルン・ファロッキ/ジュリ・グデフス/パティ・ヒル/ハインリヒ・ホエール/ティモテ・インゲン=ヒュース/栗田穣崇/ワルヤ・ラヴァター/マリー・ノイラート/オットー・ノイラート/太田幸夫/ヴォルフガング・シュミット/フランツ・ヴィルヘルム・セイヴァート/リリアン・シュトルク/アウグスティン・ツィンケル/エドガー・ヴァルザート
展覧会キュレーター:
ミケラ・ストフェルス/マキシム・ウェイリッチ/アーニャ・ドーン
カタログ:
展覧会に合わせて、カタログがVerlag der Buchhandlung Walther Königより出版される。
公共のガイド付きツアー:
毎月第1日曜日 15:00
一般学芸員による展覧会のガイドツアー:
2020年11月11日(日)11:00
ミケラ・ストフェルス
ミュージアムダイアログ:
2021年1月21日(木)19:00
ミハリア・ストフェルス、マキシム・ウェイリッチ、メディア科学者であり、日本学者であり、コミック研究者でもあるルーカス・R・A・ワイルド博士が、絵文字について語る。司会はアーニャ・ドーン。
(翻訳・記:石原伊都子)
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