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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ4

 その娘は何もかも不器用であった。
 皿を洗えば三枚は割る。洗っている最中に一枚、水切りへ移す際に一枚、乾いたものを棚に戻す際に一枚。洗濯を任せれば余計に汚す。洗剤が少ない、洗濯物を落とす、乾いたものを風に飛ばされる。本人はいたって真面目で手抜きなどもしたことがないが、とにかく上手くできない。赤子をあやすのだけは上手かったが。
 そんな娘との出会いは公民館だった。
 ーー先生、うちの娘に琵琶を教えてください。
 私は名を売るため、定期的に公民館や学校などで文化普及教育などと称して無料の琵琶教室を開かせてもらっていた。その一つに近所の公民館があった。娘の母は、楽器でも習わせれば手先が器用になり、家事仕事も勝手に上等になると考えていたらしい。そんなことと楽器の上手さは別物だが、生徒を抱えれば月謝が入る。それに、盲目の私が生徒を抱えれる機会など今後ないだろう。私は二つ返事で了承した。
 思い返せばこのときに私は間違いを犯した。娘を救おうなどと。

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