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【ホラー小説】桃の夢

 ガラスが割れた。振り向くと……。
 
 知人と一緒に山へ行き、神社で手を合わせた帰り、占いをしてもらった。
 知人曰く、よく当たる先生で、知人の知人の付き合いで予約をとらされた、と。知人は、総合占いと手相占いを見てもらって、私は手相のみを見てもらった。知人は3、40分ほど、私は10分ほど、あーだこーだと言われた。占いの先生は、私の手を見るなり、疲れてますねと言った。知人は、ガサガサの手だねと言った。私は、これが労働者の手だと言い返した。それから一つ、気になることを言われた。子どもを二人授かれると。馬鹿な。

 夜、布団にくるまり12時には寝た。嫌な夢を見た。
 誰かの家に入る。私が私としてではなく、誰かの体を通して、誰かの家に入ったのだ。
 誰かが、棚の上の写真立てに近づく。突然、ガラスの桜模様の美しい写真立てが、バタンと倒れた。誰かは、それをそっと立て直す。ひびが入っていた。
 そこで、今までにないくらい背筋がぞくりとして目が覚めた。
 ぞくりとした背中は寝室の扉の方を向いていた。勢いよくそちらに向き直ると、誰かが立っていた。私は、夫かと思い、名前を呼んだ。しかし返事はなく、そこに突っ立っている誰かは霧散するように消えた。私は、山から何か連れて帰ってしまったかなと思った。

 数分たっても、先ほどの悪寒と霧散してしまった誰かの姿が恐ろしくて眠れない。
 あれは誰だったのだろうか。
 いや、分かっているじゃないか。
 あれは、産まれてさえいれば、あの誰かくらいの背格好に成長したであろう私の子どもだ。
 私の勝手な理由で間引かれた子どもたち。一人は、男の子だった。一人は、女の子だった。桃の節句の前には男の子が、端午の節句の前には女の子が、私を怨みに現れる。私の常識外に授かった子どもたち。私は、私の常識内でしか、子どもを産むという考えになれなかった。

 また、山へ行き手を合わせる。
 山には、たくさんの、誰かの、捨てられた子どもたちが眠っている。


 

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