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東京建築さんぽ 自由学園明日館編

太田研究室note企画第16弾。
今回の担当は4年の西村になります。自分は東京建築さんぽと題して、自分の好きな建築について、気ままに綴っていこうかと思います。

近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した自由学園明日館について紹介したいと思います。建築を好きになってから初めて興味を持った建築家がフランク・ロイド・ライトでした。小さい頃から何度か行ってきた建築なので、自由学園明日館の建築としての美しさ、工夫といったところを綴っていきたいと思います。

自由学園(現自由学園明日館)

設計:フランク・ロイド・ライト、遠藤新
竣工:1922年(東教室棟:1925年、講堂:1927年)
構造:木造
重要文化財

住宅街に潜む名建築

 自由学園明日館は東京の副都心の一つ、池袋駅から徒歩10分のところにあります。駅周辺は高層ビルが林立し、喧噪を極めている場所です。駅から少し歩くと住宅地に入ります。駅からのアプローチは、狭い道路が曲折していて、本当に重要文化財の建築があるのか不安になる道のりです。しかし、しばらく歩くと遠藤新の息子、遠藤楽が設計した婦人之友社が見えてきます。その前の三又路を右折すると明日館の全景が見られます。

遠藤楽設計の婦人之友社 社屋
自由学園明日館 全景

理想の学校をつくる

 婦人雑誌「婦人之友」を出版していた羽仁夫妻が娘の就学に伴い、生活と結びついた教育を重んじる理想の学校を作ることにしました。旧知の建築家の遠藤新に相談したところ、フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルの建設作業に従事していた遠藤新は夫妻にライトを推薦しました。ライトは羽仁夫妻の教育理念に深く共感し、依頼を引き受けて設計しました。女学校自由学園として1921年に開校し、大正11年(1922) に中央棟、西教室棟が竣工、大正14年(1925) には東教室棟が完成、昭和2年(1927) に講堂が完成し、現在みられる建物群が完成しました。
 自由学園は昭和9年(1934)東京都東久留米市に移転しました。その後、明日館と命名され、卒業生の諸活動の拠点として使われてきました。戦後は自由学園生活学校の校舎として使われました。

軽快な空間構成

 建物を正面から見ると広い芝生の庭をコの字に囲い込んだ左右対称の建築群となっていて、中央棟を中心にホールと食堂があり、平等院鳳凰堂のような平面形となっています。中心性を強調しすぎない左右対称の造形にまとめているので威圧感を感じず、親近感が味わえるところが魅力の一つになっています。
 また、階層の重なりは半階が単位のスキップフロアになっており、ドライエリアに半地下室、半階上にホール、さらに半階昇って食堂、その半階上にギャラリーがあります。この連続して流動する軽快でリズミカルな空間構成が明日館の大きな魅力になっていると思います。

1階のホールの様子。上のギャラリーと視覚的につながりができるようにされている。
半2階の食堂の様子

幾何学模様とやさしい色合い、光に満ちた学校建築

 細部に目を向けると窓には控えめな装飾が施されていて光彩を放っています。窓の桟や枠で幾何学的な飾りをつけ、あるいはベニヤ板を貼って透かして見ることで陰影のパターンと時間の経過による陰影の変化が楽しめる装飾になっています。窓ごとに桟や枠の幾何学デザインの違いを見るのも楽しいかもしれません。

ホールの窓をギャラリーから見る。ホールの窓には高価なステンドグラスを使用する代わりに、 木製の窓枠や桟を幾何学的に配して工費を低く抑え、 かつユニークな空間構成を実現した。
入り口のドア。ドアにも幾何学の桟が入れられている。亀甲文様の組子デザインが印象的だった。
教室の窓にも同じように幾何学の桟が入れられている。

 照明器具はホール、ギャラリー、玄関などに行燈のようなランタンボックスが幾何学的なデザインを施されて設けられています。トップライトやダウンライトにも同じように幾何学的なデザインが施されており、ひとつひとつのデザインの違いが楽しめます。食堂に吊られたペンダントや小食堂のシーリングライトにもデザインが施されており、照明器具のひとつひとつが芸術作品となっています。

玄関前のランタンボックス。木製の桟と枠で幾何学模様が構成されている。半透明の素材を通して照明の光を柔らかい光にしている。隙間から漏れてくる間接光が印象的だった。また、大谷石の石組みがさらに温かみを演出している。
ホール入り口前の立体的な組子のトップライト。自然光と人工照明の組み合わせが印象的だった。
食堂のペンダントライト。高い勾配天井から吊るされ、程よい高さで視線に振れる。室内空間に落ち着きと優雅な雰囲気を与えている。

 明日館には外装と内装の一部に大谷石の石組みが一貫して使われています。大谷石はライトが日本での作品で一貫して用いてきた石材です。大谷石は所々に穴が開いており、光の当たり方によって陰影が出て、柔らかい温かみが感じられる特徴があり、日本では昔から蔵の壁や住宅の擁壁などに使われてきた石材です。ライトは大谷石の独特な暖かく柔らかい雰囲気に着目して、外装ではアプローチの石畳や基礎に、内装では柱や人が集まりやすい暖炉に用いています。このような素材のこだわりも見てみると建築作品は一層面白く感じられるかもしれません。

ホールの大谷石の暖炉。
ホールの大谷石の柱。基準面から出っ張ったり、へこんだ部分を作ることで柱に深みを生み出している。
廊下の様子。廊下の床や壁、柱の基礎に大谷石が使われている。
外観の様子。基礎やアプローチの石畳に大谷石が使われている。

まとめ

 今回は自由学園明日館について紹介してみました。個人的に明日館は池袋から少し離れただけですが、非常にのどかな雰囲気を感じられて、心安らぐ時間を過ごせると思います。また、食堂やホールでは紅茶やコーヒーとお茶菓子も食せるので、くつろげる場所だと思います。また、ここでは紹介できませんでしたが、動態保存の取り組みやフランク・ロイド・ライトのプレーリー様式の大地と融合する建築という考え方も非常に興味深いものでした。
 もし、訪れる機会があれば、建築デザインの細部の工夫にも目を向けてより一層楽しんでもらえると幸いです。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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