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アフォーダンスからこれからの建築を考える。

太田研究室note企画記念すべき第10弾です!
今回は新4年の高橋が「アフォーダンスからこれからの建築を考える。」というテーマで書かせていただきます。


1.アフォーダンスとは

早速ですが、皆さんアフォーダンスをご存じですか?

アフォーダンスとは、アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンが英語の動詞アフォード(afford =与える)をもとに名付けた造語です。アフォーダンスは物に備わる性質であり、同時に、物と人(動物)との関係の仕方、物に触れる人(動物)の行動によって、はじめてあらわれてくる性質です。

といわれても文字だけでは完全に理解するのは難しいですよね。。。

例えば、四角柱があるとします。それを人は踏み台にしたり、椅子にしたり、ある時はベットにするかもしれません。これは人が四角柱を使って「座る」という機能をもつのではなく、四角柱がもつ「座る高さにちょうどいい、体重をかけても安定している、腰をかけても痛くならない平面」といった性質が、人に「座る」という行為を引き出しているということです。つまり、「情報は環境に存在し、人(動物)はそこから意味や価値を見いだす」という概念になります。

物と人の間にはいくつものインタラクションの可能性が存在している

2.シグニファイアとは

シグニファイアとは、ギブソンが提唱したアフォーダンスという概念を元に、認知科学者ドナルド・ノーマンが提唱した概念です。物と人(動物)の間にはいくつもの意味や価値が存在している中で、物と人の間のインタラクションの可能性を示唆するヒントのことです

例えば、先ほど四角柱と人の間には踏み台、椅子、ベットといった様々な相互作用の可能性があるが、それぞれの行為に誘発するように、踏み台には段差が設けられ、椅子には背もたれが設けられ、座面が柔らかくなり、ベットには平面がすのこになったりします。

それぞれのインタラクションを示唆するデザインがされている


余談ですが、1998年認知科学者のドナルド・ノーマンは『誰のためのデザイン? ―認知科学者のデザイン原論』で間違った解釈でアフォーダンスをとりあげてしまいました。それをきっかけに、アフォーダンスという用語が本来とは異なる意味で濫用されるようになりました。その後、ノーマンは自分が示したアフォーダンスの概念は誤解であったと発表し、本来のアフォーダンスと意味を区別するため、ノーマンは、「シグニファイア」と呼ぶことに決めました。
なので「アフォーダンス」-「シグニファイア」のことが「心理学におけるアフォーダンス」-「デザインにおけるアフォーダンス」という風に呼ばれていたりもします。

ドナルド・ノーマン著書『誰のためのデザイン? ―認知科学者のデザイン原論』


ここで身の回りのシグニファイアの例を少し紹介したいと思います。

①ゴミ箱 

穴の形でゴミの分別を誘導している。

②ドア 

手すりの有無や形で押し戸か引き戸かを誘導している。

③その他

   色やマークで誘導している(引用元:https://www.cresco.co.jp/blog/entry/7780.html

今私たちが生きている社会にはシグニファイアがありふれています。
先ほど例に上げた四角柱もそれぞれの機能に合わせて形が変化するように、建築を作る時も書斎ならば、光はあまり入らず、天井は低めで落ち着ける空間にしたり、リビングのような場所なら大きな部屋で天井は高く、大きな机を設けたり、ちょっとした小上がりを設け、コミュニケーションが生まれるような空間にします。私たちが行っている建築設計というのはシグニファイアを考える行為と捉えることができると考えます。

このように、シグニファイアとは、使う人の行動を誘発させるもので、デザインはもちろん建築設計の本質とも言えるのではないでしょうか。

3.コトバは危険?

勘のいい人は気づいているかもしれませんが、上記の例の中にも言葉があるものがあります。結局、言葉が一番のシグニファイアなんじゃないかな、なんて思ったりしています。

(散歩中に見つけた言葉によるシグニファイア)

しかしそれは危険で、僕たちが生活してるなかで言葉があることで、当たり前に縛られてしまうケースがあるからです。

シグニファイアはデザインや建築設計の本質であるのではないかという一方で、シグニファイアに囚われ、自由な発想が生まれないという側面もあると思います。

例えば、コップという名前を知らなければ、それをペン立てにしたり、花瓶にしたり他の使い方を創造することができます。

ゴミステーションは近隣住人が家にたまったゴミを出します。それを見方をかえて、「日常的に街の人が利用する」と捉え、ちょっとした椅子や空間を設計すれば、地域コミュニティが生まれるきっかけになるかもしれません。

一度名前を外して、そのものが純粋に持っている情報に目を向けることができればなにか新しいアイディアや発想の手助けになるでしょう。      

4.環境によって表出するインタラクションが変わる

椅子がある教室に石があっても座るというインタラクションは生まれにくいが、砂漠の中に石があれば生まれるでしょう。このように周りの環境や気分によって同じ物でも見出す意味や価値は変化するのです。

椅子がたくさんある教室に石がある→人は椅子に座る
座る場所のない砂漠に石がある→人は石に座る

これからの時代、車の所有者は減り、ガソリンスタンドの需要が低くなるかもしれません。ガソリンスタンドにはもともと危険なガソリンを貯蔵し、それを車にガソリンを入れるため、耐震性が強く、大きな屋根があるという性質が存在します。そこで、キッチンカーやテーブル、イスなどを設ければ、もしかしたらまちのサードプレイスになりうるかもしれません。

5. これからの建築を考える

高度成長を遂げるために建築が大量生産された時代は終わりを迎え、フロー型からストック型の時代に突入したといわれています。これからは新しく作るのではなく、今ある物を使いこなすが重要視される時代になるでしょう。
よって、これからの建築を考えるにあたり、アフォーダンスを理解したうえで名前に囚われずに考え、時代や環境の変化に臨機応変に対応し、多様な既存の社会資源を見立て直し・再編集する力が重要になると考えます。
これからの建築を考える際、アフォーダンスという概念は重要なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。


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