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NASAがダンボールで作った月着陸船、1/6重力で不要なものとは?

 岡田斗司夫です。

 今日は、2019/07/28配信のニコ生・岡田斗司夫ゼミ「【月着陸50周年記念】アポロ宇宙船(後編)月着陸と月面歩行」からハイライトをお届けします。

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 じゃあ、今日はアポロの話をします。

 前回は、このアポロ宇宙船の話をしました。

(模型を見せる)

【画像】アポロ宇宙船の模型

 この、「司令船」、「機械船」、「月着陸船」の3つがくっついた状態がアポロ宇宙船です。

 今回の話の主役は、この月着陸船です。

 月着陸船に関しては、今年になってから急に、いろんな資料が出てきました。

(本を見せる)

【画像】『月着陸船開発物語』

 これは、つい先日、発売された『月着陸船開発物語』という、メチャクチャ分厚くて、2500円もする本なんですけど。

 これは、月着陸船の開発を担当した、グラマン社のトーマス・ケリーが書いた、メッチャ良い本です。

 今回は、この月着陸船についての話は、この『月着陸船開発物語』をベーステキストとしています。

 これが、月着陸船のほぼ正確な形の模型ですね。

(模型を見せる)

【画像】月着陸船の模型

 足は開いた状態になってます。

 以前、限定の方では話したんですけど、わかるかな? 形が左右非対称なんですよ。こちら側が大きく膨らんでいて、こっち側が小さいのわかりますかね?

 これ、なぜかというと、「同じ重さの燃料をタンクに入れたから」なんです。大きいタンクは、比重が低い燃料を入れたので膨らんでいて、小さい方のタンクは、比重が重い燃料を入れたので小さい。推進剤と酸化剤というのは、重さが違うんですね。なので、こういう左右非対称の形をしています。

 月着陸船自体の重さは、14.8トンあります。ほぼ15トン近くあるんですけども、もともと予定では9トンだったんですね。

 NASAからの要求では「9トンでなんとか作ってくれ! そうでなければ、サターンV型ロケットでは打ち上げられない!」と言われてたんですけど、最終的には15トン近くなりました。

 なので、開発は「いかにして、この月着陸船を1グラムでも軽くするのか?」という、重さとの戦いになりました。

 これを開発をしたのはですね、グラマン社です。

 グラマン社というのは、第2次大戦に日本と戦った「グラマン・ヘルキャット」を開発した会社なんですけど。

 なぜ、飛行機を開発した会社が月着陸船のコンペに勝ったのかと言うと。このヘルキャットというのは、いわゆる空母に載せて運ぶ「艦上戦闘機」なんですね。

 空母というのは滑走路がすごく短いですから、着艦するときも、墜落するような形でドーンと落とすんですけど。そのために、着陸脚がメチャクチャ太いんですよ。

 このように、海軍機というのは、脚がメチャクチャ太いのが特徴で。こういう丈夫な脚の飛行機が作れることが条件だったんですね。

 あとは、この翼の畳み方を見てもらうとわかるんですけど。

(パネルを見せる)

【画像】ヘルキャットの翼の畳み方(ブログ「わかくさモノ造り工房」より引用)

 こういう複雑な構造に対応できることも条件の1つでした。

 これも、船に載せるために、翼を畳まなきゃいけないんですけど。見てわかる通り、畳み方がちょっと変なんですね。一度ひねってから後ろ側に持って行くということをやっています。

 こういうふうに、「丈夫な着陸脚を作れる」、そして「複雑な仕掛けを作れる」という実績が認められた結果、グラマン社が月着陸船の開発競争に勝ち残りました。

 まずは、船に載せるために徹底的な軽量化を施した飛行機開発を経験済みだということ。

 あとは、空気の薄い高度まで上昇できる飛行機を作っていたという実績もあったので、「空気がないところで使用する宇宙船を作れるだろう」という見込みもありました。

 なぜ、頑丈な脚が必要だったのかというと、月に着陸する時というのは、もうほとんど月面に衝突するような勢いで、ドーンと着陸させようという考えだったからです。

 このドーンと落とすような着陸に耐えられるように、とりあえず、ひたすら丈夫な脚にしようと思ったんですね。

(模型を見せながら)

【画像】月着陸船

 この脚って、わりと細く見えるんですけど、これは「6分の1の重力だったら、これでいけるだろう」と思われるギリギリの細さなんですね。

 こんなふうに、グラマン社というのは、こういったカラクリの多い仕掛けに慣れていたんです。

 そのグラマン社が提出した月着陸船の初期案は、こんな感じの機体でした。

(パネルを見せる)

【画像】グラマン社の月着陸船初期案(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 これは上半分のデザインなんですけど。デカい窓が4枚もついているんですよ。そして、宇宙飛行士が出て来る丸型のトンネル。こんなふうに、全体が曲面のデザインだったんですよ。

 しかし、これでは重過ぎたんですね。宇宙空間というのは、空気抵抗がないから、どんな形でも良いんですけど。まずは強度を保とうとして、「最小の体積で最も強度が高い形」ということで、より球形に近いデザインにしようとしてたんです。

 だけど、こんなことやっている余裕はなかったんですね。鉄板とかアルミとかを曲げて、こんな形にしていたら、重くて仕方がない。

 曲面デザインというのは、確かに強度は高いんだけど、ここまでの強度は必要としていないということで、形がどんどん変わってきます。

(パネルを見せる)

【画像】月着陸船プロトタイプ(ブログ「ケイの彗星画廊」より)

 こんなふうに、その後、デザインはC案、D案と変わっていって、最終的に今の月着陸船になるんですけど。

 この写真でプロトタイプのデザインを見てみると、5本脚なんですね。「こんな5本脚も要らない」と。

 あとは、初期案では、下に降りるためのハシゴがないんです。宇宙飛行士は、このタコの口みたいなハッチから出てきたら、ロープを吊らして、ウインチで吊り上げたり吊り下げたりしようと考えてたんです。

 こんなふうに、まず、曲線デザインをやめて、軽くしました。次に着陸脚5本も要らないということで、4本にしました。

 ただ、NASAからの要求では、「月の上っていうのは砂まみれな上に、真っ平らな平面というのはあまりないだろう」ということで、やや傾いた地面に斜めに突っ込んでも横転しないことが求められていたんですね。

 これが難しいんですよ。というのは、月着陸船って、上半分がロケットで打ち上がるので、上半分だけが重い、トップヘビーの構造なんですよ。だから、砂だらけのところで、斜めから斜面に突っ込んだらコケてしまうんですね。

 その後、何度も実物大の模型作って斜面に落としてテストしたところ、「転がらないようにするには、この脚を、当初の予定より思いっきり広げて、踏ん張るような姿勢で作ればいいことがわかりました。

 ところが、せっかく4本脚で踏ん張るように広げると、今度はサターンV型に入らなくなるんですね。

(模型を見せながら)

【画像】サターンV型と月着陸船

 これはサターンV型の72分の1の模型なんですけど。こういうふうに脚を折り畳んだら、ギリギリ入ると思ったんです。

 しかし、そうすると「サターンV型の中で折り畳んでいた脚を、いざ月に降ろす時に広げる」という行程が発生してしまう。「果たして、そんなこと出来るのか?」と。

 この辺で、グラマン社の「カラクリの多い海軍機をいっぱい作ってきた」という、それまでの実績が評価されたわけですね。

 この「宇宙空間で脚を広げられるか?」については、「月着陸船が、着陸前に月の軌道上で、司令船の前で脚を広げてみて、うまく広がらなかったら、もう月着陸は諦めて、地球に帰って来ちゃおう」という見切り発車で、月着陸船はどんどん開発を進められていきました。

 重量をなんとか軽くしようという戦いの中で次に出てきたのが「椅子はいらないんじゃないか?」という話でした。

 「月というのは、6分の1の重力なんだし、宇宙飛行士は、立ったまま着陸しても大丈夫じゃないか?」と言われたんですね。

(パネルを見せる)

【画像】月着陸船に関する議論(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 この黒板に書いてありますけど、「6分の1の重力だし、宇宙飛行士をコードで背中の側に引っ張って座らせて、あとは腕をアームレストに踏ん張ってたら、椅子いらないんじゃないの?」と。

 「いや、ちょっと待ってよ。彼らは月の上で最大1泊2日くらいするんだよ? その間、どうやって寝るの?」と言ったら、「6分1の重力だから、立って寝れるんじゃないの?」と。

 もう、こうなると、事前に実験なんてできないんですよ。

 それまでにも「無重力状態で寝れる」ということは確認済みです。だからと言って、「6分の1の重力で人間が立ったまま寝れるかどうか?」というのは、誰も確認してないんですね。

 もしこれがダメだったら、宇宙飛行士は睡眠不足のまま、帰路につくことになり、大変危険だったんですけど。

 でも「この椅子を2つ取っ外したら、合計で80キロくらい軽くなる」と。

 おまけに、「立ちっぱなしなら、窓の位置も顔にメッチャ近くなるから、窓もあんなにデカくしなくてもよくなる。窓も小さくしよう! せっかく立ってるんだから、顔のギリギリ近くに小さい窓つければいいじゃないか!」と。

 さらに、「そもそも、窓なんて着陸の時にしか使わないんだから、前や上なんて見えなくてもいい。下さえ見れれば十分だ!」と技術者達は言い出したんですね。

 それを聞いて、開発部長だったトーマス・ケリーも、流石に怒り出したんですよ。「それはないだろ? 前が見えないのはマズいよ!」と言ったんです。

 すると、スタッフたちは、トーマス・ケリーに内緒で、徹夜でダンボールで実物大のセットを作って、「ほら、これでなんとか見えるよ」と言ったんです。

(パネルを見せる)

【画像】ダンボールの実物大の模型(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 確かに、このダンボールの実物大の模型の中に入ってみたら、ギリギリ見えるんですよ。

 そもそも、この月着陸船というのは「自動操縦」なんですね。

 一応、手動での操縦装置も入ってるんだけど、宇宙飛行士たちは「これは使っちゃダメ!」って言われてたんですよ。「もう全部、自動操縦でプログラムしてあるから、それに任せろ。宇宙飛行士というのは決定ボタンを押すだけでいいよ」と。

 で、「自動で月に安全に着陸することになっているんだから、窓なんか飾りだ! 最悪、何も見えなくても構わない! それよりも、とにかく重量を減らすことが大事だ!」ということで、アポロの月着陸船は、前が見えずに下がちょっと見えるだけという恐怖の窓になってしまいました。

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