太く長く生きたいのだが、
家の目の前にある大通りはいつも商店街を訪れる人で賑わっているが、窓を開けてみても音がない。強いて言うなら漫画のコマの背景に描かれる「シーーーン」という音が聞こえてきそうなものだ。
今日も朝3時に起きる。
俺にとって3時は「朝」だ。誰が何と言おうと朝だ。今年の夏は近年稀に見る猛暑で、今年の冬も暖冬かと思っていたが1月も後半になるとさすがに朝は寒い。寒い寒いと言っていても埒があかないから一度トイレに行き用を足す。トイレは布団よりも部屋よりも極寒だから自然と目が覚める。
そして、代官山で買ったお気に入りの洗顔で顔を洗い、イソジンうがいをして、顔や口周りの感覚も起こしていく。この、感覚がだんだんハイになっていく感じがたまらない。今日も一日が始まる、人生がまたオンモードになる、俺はまた生きてる感覚を取り戻す。
今日の朝メニューは、ランニング、英会話レッスン、簿記2級だ。出勤前の朝時間、これらを全てクリアできたら万々歳だ。7時30分までに間に合うだろうか。間に合わせるしかない。今日もまたSNSにメニュー内容を呟く。これが朝活を始める合図だ。
家を出て軽くストレッチをする。太ももを上げながら少しずつ歩を進める。片足ずつ、ゆっくりと、丁寧に。ランニングをする前には欠かせないアキレス腱の伸ばしも念入りにしていく。怪我をしてしまったら元も子もないから。ランニングをしているのには訳がある。約50日後にフルマラソンの大会に出るからだ。目標はあったほうがいい。叶うか叶わないかくらいのちょうどいいやつがいい。
小学生の頃から陸上競技をしていたため走ることには自信がある。とはいえ42.195kmのフルマラソンはまだ経験がない。そこで、かれこれマラソン歴15年以上あった父親に教えを乞うた。
「朝は走ると気持ちがいい」と口酸っぱく言っていた。
朝のランニングを習慣づけてから約1年になる。最近になって、父の気持ちがよく分かるようになってきた。
そんなことを思い出しながら10km走った。いつものように10kmを一時間で走ることができた。
シャワーを浴びると現在の時刻は4時30分になっていた。今から英会話レッスンを受ければ予定通り出勤時間までに間に合うだろう。リモートで受講できるからとても便利だ。隙間時間を有効活用できる。仕事で海外赴任もあるかもしれないから今のうちに行きた英語のスキルを上げ、大きな仕事をしてみたい。
英会話の先生はいつものジョンだった。「本名はジョナサンだからジョンと呼んでくれ。犬じゃないぞ〜。」と、おそらくいつも生徒の前でやっているであろう自己紹介を、さも持ちネタのようにやってくれた日からとてもお気に入りの先生だ。時々雑談もする。「今日の晩御飯は何食べるの?」とか他愛もない話をする。これも英会話上達に必須らしい。
「I wonder what I should make for dinner tonight. Hamburger, Omelet Rice, Curry and Rice …… and so on. I'm debating.But now, There's nothing to eat in the refrigerator so I want to eat beef bowl in Yoshinoya.」
ジョンは雑談の時は大抵日本語だが、俺は絶対に英語で返答する。ビジネスの際の英語も大事だが、雑談やユーモアもないと海外では自分の存在をアピールできないからだ。
「結論のI want to eat beef bowl in Yoshinoya を最初に言った方がいいヨォ」
なるほど。ジョンはお笑い芸人並みに笑いを追求する割に英語のアドバイスは的確だ。
ジョンとの授業はあっという間に終わり、6時になった。
簿記2級の勉強を始める。今日はテキストを10ページ読み返し、貸借対照表の部分を中心に模試をやってから間違えた問題を解き直す。1時間集中すれば無事に終わるだろう。読み返す時に音読した方が頭に入る。間違えた問題も、繰り返し繰り返し解くことによって身に入っていくようになる。
「今日も全メニュークリアできました!」
朝ご飯を軽く済ませ、7時30分にSNSを投稿してから、いつも通りサラリーマンらしく出勤する。
今日もなんとか充実した朝活ができた。
今日も朝だけで4時間ほど勉強と運動ができた。この習慣をいつまで続けることができるだろうか。最初は3時起きだなんてい信じられないと思っていたが、癖になってしまえばこっちのモノだ。しばらく辞めるつもりはない。このゲームをクリアしていく感じと知識や体力がつき、どんどん強くなっていく匂い。たまらんのだ。
こうやって俺は生の実感を持っている。
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