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標識プロジェクト報告展示 & トーク

2022年7月24日(日)
展示: 絵本の蔵 8:00–13:00
トーク: 絵本の蔵周辺 10:15–10:45
ゲスト: 筑波大学芸術系原忠信研究室 Play Resilience Lab.
協力: おたづき蔵マルシェ

2019年から始まり、3年間に及んだ「みんなで つくろう 小田付 重伝建 標識プロジェクト」では、小田付のみなさんをはじめ、たくさんの方々の協力をいただきながら、目標としていた「みんなで考える標識のデザイン提案」を実現することができました。7月に行われた報告トーク会では、活動を振り返り、これからに向けての提案がなされました。


原先生 みなさん、こんにちは。「みんなでつくろう小田付重伝建標識プロジェクト」でデザインの統括を担当しています筑波大学芸術系の原忠信です。グラフィックデザインにおいて、何をモチーフにするかということは一つの大切なポイントです。プロジェクト開始前から、小田付において、「水が大事」という仮説がありました。10年前にサンフランシスコ州立大の学生とのワークショップ、3年前この敷地にブルーシートのプールをつくった時、どちらも水がコンセプトの中心にありました。喜多方全体がそうですが、小田付は特に水が豊かな印象があります。水が豊かだと食べ物が美味しくなる。おいしい野菜、おいしいお米、おいしいラーメン、おいしいお酒。それを食べている人も美しくなる。そんなお話をきいたことがありました。

2019年 水場大作戦でのブルーシートで作られたプール

標識プロジェクトがはじまった時、ちょうどコロナが広まりはじめました。ですが、ちゃんとマスクをつけて、子どもたちとまちなみ探検ワークショップを実施しました。未来を担う子どもたちの視点で小田付の面白い場所を探して、カメラに収めてもらう。そして、「まちなみチャンピオンシップ」と称して、どの写真が一番良いか話しあいながらトーナメント方式で優勝者を決めるワークショップです。優勝作品は「きゅうりの神様」というタイトルで、牛頭天王社にお供えされていたきゅうりを中学生が撮った写真です。お祭りでも使われる大切な場所。住んでいるみなさんの思いが詰まった場所。人の営みが感じられる場所。境内の木が雨に洗われ、浮造(うづくり)のように削られているディテールもしっかり捉えています。きゅうりの神様にはやはり水が関係しています。さまざまな意味がありつつ、水がテーマだったことを改めて確認することができました。

ワークショップ「まちなみチャンピオンシップ」優勝作品。

ワークショップでの発見を持ち帰り、筑波大でデザイン開発を進めました。重伝建に選定された決め手の1つが、表・中・裏の堀に水が豊かに流れていることだったと聞きました。水路やしずくなど、水を表現するモチーフを中心に、蔵、雪、まちなみなど、さまざまなモチーフを小さな紙に描き、たくさんのアイデアを出していきました。その中で精緻化すると良さそうなものを選び、8案のデザインを開発していきました。それらを原寸で印刷し、重伝建の壁に貼り付けて視認性、可読性、大きさなどをワークショップ形式で確認して、どのデザインが良いかみなさんと意見交換をしながらデザイン案を選定していきました。

小田付重伝建を象徴するモチーフのアイデア

素材もポイントになっています。陶器、磁器、ガラス、木材、金属などを検討した結果、高齢者生産活動センターのみなさまの協力のもとで陶器のプレートを採用し、UV印刷で印字しました。釉薬は水のイメージから少し青みがかったグレーが使われています。文字の色は、白と黒2つのサンプルを検討し、白文字の可読性が高いことを確認しました。プレートに載せる情報について、建築年代、建物の名前と用途、重伝建の表記、計画番号、そして開発したマークを配置することを喜多方市役所文化課の蓮沼さんと相談しながら、デザインを最終化していきました。インバウンドに対応するために英語表記も加えました。
一気にお話しましたが、じっくり3年をかけてこれらを進めました。デザインは、学生が1人1案ずつ提案しました。この採用案をデザインしたのが、田中陽くんです。デザインのポイントについて、聞いてみましょう。

田中さん まず、小田付の町並みを見たときに、標識があることで景観を損なってしまうんじゃないかという懸念がありました。そうならないように注意しながら、サインとして役割を果たせるような色や形を考えました。0か100かの尺度ではなくて、7対3とか6対4みたいな尺度で伝えたいなと。それに合わせて、水がモチーフということがあって、白い漆喰の壁や濃い色の木の壁、土壁、どの壁にあったとしても建築にそっと寄り添うようなサインを目指しました。伝えたいことがたくさんあった中で、マークはまず小田付を知ってもらうきっかけとして「水」のイメージをポンと与えたいと考え、小田付で感じた澄み切った空気感の色を表現しました。見た人が、「水がロゴになっているけど、どういうことなの?」となって、マークをよく見ると中に蔵が見えてきて、最後にサインの3本の線の由来を所有者の方が説明する、そんなコミュニケーションにも繋がる、段階を踏んでいけるようなロゴにしたいと考えました。そういった点で、伝えたいことを順々に伝えていくという思いを込めてデザインしていくうちに、かなりシンプルになりました。

原先生 確かに最初にデザインしていたものより、かなりシンプルになりましたね。引き算的に作られたマークですが、標識の中で伝えたいメッセージをしっかり伝えることができていると思います。

このマークは標識だけではなく、小田付全体のマークとして使っていただくことを想定しています。当初「小田付重伝建」と表記していたのですが、あえて「小田付」だけにしました。現在WEBサイトの制作も進んでいて、このマークが使われる予定です。記録集に掲載されているインタビュー記事や映像「水流の小田付」も格納されます。ぜひご覧ください。

タイポグラフィーにもこだわっています。標識は192枚あったので、1人30枚くらい、ゼミ生みんなで手分けしてレイアウトしました。文字間をどのくらい詰めたら良いか、配置はどうか、英語の単語間はちょっと詰め気味でいこう、など試行錯誤の末に完成しました。

まだプレートは取り付けられていませんが、一通り完成したら所有者のみなさまの手に渡り、取り付けていただくということになるそうです。これが建物に取り付けられていくと、それを目印に人が歩いたり、探検したりできます。このプロジェクトの記録集は「おたづき探検」というタイトルです。裏堀をめぐる旅や、お店をめぐりながらぐるっと周遊するとか、散策できる町は魅力的ですよね。「おたづき探検」は初めからそんなことを意識してつけた名称でした。車だと一瞬で通り過ぎてしまうけど、ゆっくり歩くといろいろな発見があり、町の良さが伝わります。標識がそういう発見のきっかけになると良いなと。過去の遺産を引き継いで、重伝建として残して未来につないでいくためには、それを活かす必要があります。重伝建に皆さんが手を挙げて下さったことは、まちを活かす意思表示だと思います。たくさんの人がまちなみを見に来ることは誇らしい。それがシビックプライド(まちへの誇り)の醸成に繋がります。

標識をさらに活かすために、プロジェクト最後の作業として私たちはマップをつくっています。マップを見ながら、たくさんの人に町を歩いてもらえるように、大学生の目線で好きな場所や気になる場所をまとめています。昨日まち歩きをしながら取材したゼミ生たちにどこが気になったのか聞いてみましょう。

高桑さん 私は、昨日伺った「和飲蔵」が印象的でした。建物自体ももちろん魅力的だったのですが、それ以上に魅力的だったのが人です。その蔵を所有している方が、蔵のいろんなことを説明してくださって、とても素敵だなと思いました。どんなに町並みや建物が素敵であっても、そこに住む人々が意識を持って町を大切にしていかないとこんな素敵な町にならないと思うので、建物だけでなく人が大事だと感じました。

大山さん 私は、この近くの「たけや」さんという竹の工芸品を扱うお店が気になりました。店構えもガラス張になっていて、入っていきやすい場所でした。小田付のみなさんってみんなそうなんですけど、すれ違う時も「こんにちは」と声をかけてくださる温かみがあるところだなと思っていて、そちらの職人さんもすごく親しくお話しをしてくださいました。お店の奥に作業スペースがあるんですけど、そういうところが見られるというのも楽しくて素敵だなと感じました。

浜野さん 私は、昨日、三浦商店さんにお邪魔して、素敵な竹かごを買ったんです。生まれ育った環境もあり私にとって買いものの場は便利で整頓された今すぐ必要なものが揃う場所という側面が大きく、雑多な物が並んだお店に行ったことがなかったなと思いました。なんだかときめいた気持ちで物を買う体験ができたことがすごく良かったです。ずっと使える職人さんの手作りのかごが買えて嬉しかったです。

熊澤さん 僕は、昨日、きゅうりが置いてある神社に行ってきました。今回初めてプロジェクトで喜多方に来て、最終の取材しか参加出来なかったんですけど、地域の人が土地の素晴らしさに自ら気づいて文化を醸成していく姿勢が素晴らしいと思いました。つくばは比較的新しい町なので、対比して、人が作ってきた伝統が町にしっかり息づいていることが感じられて素晴らしいと思いました。

嶋村さん 昨日は小田付の北側を中心に散策してきたのですが、中堀がまだしっかりと残っていて生活に使われていたのが印象的でした。伝統的な街並みが残っている地域は日本各地にあっても、そこに住んでいる人がいて、生活の中で形を変えつつ脈々と受け継がれている、というのは小田付ならではの魅力の一つだと思います。

石井さん 私は昨日北側を周って樟山珈琲店さんにお邪魔しました。何度も訪問しているんですけど、店主さんがいつもとてもエネルギッシュで、行くたびにそのエネルギーを浴びて元気をもらうのが楽しみになっています。いただくコーヒーからも元気をもらえる、とにかく元気の源が詰まった素敵な場所だなと思います。樟山さんに限らず、小田付のみなさんはいつもオープンでフレンドリーで、元気をくれるような接し方をしてくださるのが印象深いです。

田中さん 僕も北側を周ったのですが、長屋が気になっています。何が気になったかというとデザインをしているので看板だとか、文字とかに興味があって、昔の手書き文字がそのまま残っている看板がたくさんついている建物なのがすごく魅力的だったのと、横にずらっと長く連なって背の高い建物はなかなか見たことがなくて印象に残っています。

原先生 喜多方の人が素晴らしいということは、よく話題になります。人がまちにいる、住んでいること、空き家にならず人が住み続けることが街の活性化において重要です。日本全国で空き家が問題になっています。残念ながら喜多方でも、若い人が町の中心部から減っていて、少し離れた塩川の方は増えているというお話を伺いました。自転車ルート作成のために今回自転車を持って来たのですが、小荒井から小田付まで5分ほどで着きました。喜多方は素晴らしいコンパクトシティです。徒歩・自転車を交通手段として活かすべきです。人間が体を動かして移動する手段をアクティブモビリティと呼ぶのですが、メリットしかありません。健康に良い、二酸化炭素の排出を減らせる、駐車場を減らせるのでまちなかのスペースを有効に使える、気軽にお店に立ち寄れるので地元商店街の活性化に繋がる。なにより、人の姿があると、まちが素敵になる。素敵なところには人が集まる。そいう好循環が生まれます。だから、町に住めば車に依存しすぎないライフスタイルが実現できる。若い人がそういう価値観を持って、クルマに依存しなければ生活できない塩川ではなく、まちなかに住むと良いと思います。

例えば、それが半ば強制的にできているのが尾道や長崎です。斜面が急すぎて車が入れないのでヒューマンスケールの路地が発達し、そこが自然に徒歩の街、ウォーカブルシティになっています。若者が好んで古い建物に住みはじめると、そんなライフスタイルを好む人たちが集まってくるので、コミュニティが生まれます。小田付にもそういうポテンシャルがあると思います。

小さな標識ですが、これをきっかけにコンパクトシティ、ウォーカブルな町づくりの議論が進んで欲しい、良い循環が生まれて、若い人たちが住み続けたくなるようなまちづくりのカルチャーが育っていくことを願っています。

最後に、このプロジェクトでは小田付郷町衆会をはじめたくさんの方々にお世話になりました。私たちは、デザインの力でまちづくりに貢献したいという気持ちで喜多方を訪れるのですが、いつも教わることの方が多く、たくさんの学びや刺激を頂いてきました。心から感謝いたします。いつも「また喜多方に行きたいね」と話しながら帰路につきます。私たちは小田付のファンです。プロジェクトが終わっても遊びにきます。どうもありがとうございました。

星さん 素晴らしいお話をありがとうございました。もう20年近く町並み保存に関わっていまして、最初は東京大学の北沢先生のところの学生さんたちからスタートして、色々、若い方々にたくさん来ていただきました。最近では、原先生そして宮原先生にも来ていただいて、南町2850の建物を修理していただいたりもしましたね。本当にこの町に若い方々が来てくださるたびに、感謝と同時にいつも刺激を受けて勇気づけられる、その繰り返しだったと思うんです。それがみなさんにとっても刺激になったり、学びになっていたということを聞いて、WIN WINで、私も良かったなと思っています。やはり町の人たちは、そこに若い人がいて何かをしてくれているというだけで元気が出てくる。だから、そういう好循環が生まれたのかなと思って、感謝の念でいっぱいです。今回特に、形に残るものができたことが素晴らしい。標識だけでなくて、飯田さんによる素晴らしい映像ができて、それから「おたづき探検」の記録集ができて、物として残されたという事がすごくよかったなと感じています。

伊関さん 平成15年に会津喜多方小田付郷町衆会が出来まして、私は2代目になります。ようやく、長年目的とした重伝建にも2018年に選定されて、それで少しずつですが小田付も変わってきたなと感じています。今回、標識プロジェクトでみなさんが関わってくださった標識が全部かけられた時に、また小田付は変わってくると思います。私たちは小田付に住んでいて、みなさんわかっているんですが、維持をしていくのは大変です。若い人たちが来てくれることは大きな力になります。本当に長期のプロジェクトをご苦労様でした。ありがとうございました。


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