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Vol.4 身近な生活の足をどう支えるか?

「池上線・東急多摩川線は地域の足として、地元の皆さまと共に歩んできました」 

 コロナ禍で緊急事態宣言が発令中の東京において、1両に数人だけを乗せて走る池上線・東急多摩川線の電車の車内や駅構内に、こんな手書きのポスターが数多く掲出された。「3密」が感染源となりうるコロナ禍の中で、公共交通は真っ先に避けられること、とはいえどうしても使わないといけない部分はマスク等の感染予防対策をして使わざるを得ないことを考えると、自転車でも代替がきく池上線・東急多摩川線は真っ先に利用客がいなくなる…。2020年4月と5月の池上線・東急多摩川線は、そのことを実証するくらいの空気輸送だった。そして私自身も、4月・5月は蒲田・五反田・大井町に行く時に、電車に乗るという選択肢はなかったし、何より家族から「できるだけ電車やバスに乗らないでくれ」と懇願されるほどだった。

 おそらく東急電鉄もそのことを理解しており、これらのポスターはそれでも利用してくれる人への感謝、利用せざるを得ない人への励まし、緊急事態宣言が解除された後の「新しい生活様式」を取り入れたニューノーマル下で、もう一度、地域の足として位置づけてもらうための地域住民へのPRだったのではないかと思う。正直、迫りくるコロナウィルスの前ではこのような東急の訴えが、どれほど効果があったのかは分からない。とはいえ、東急がこの事態を強い問題意識と危機感を持って捉えていることだけはひしひしと伝わってきた。

■2020年5月に掲出された「手書きポスター」を紹介する記事(https://sirabee.com/2020/05/07/20162320074/より)

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 そこで、ここでは池上線・東急多摩川線のような生活密着路線が、アフターコロナでどのように生まれ変わる可能性があるのかを考えていきたい。

 1つめは、テレワーク・在宅勤務の定着によって、かつてのラッシュ時ほどの需要は戻らないことを前提にした「自転車・車いす・ベビーカー専用スペース」の拡充である。すなわち、ラッシュ時に詰め込みを前提とした通勤電車であったがゆえに、使いづらかった新たな利用層の発掘を目指していくという考え方である。
 池上線・東急多摩川線での具体的な運用としては、例えば日中は30分間隔、朝・夕は15分間隔で、3両のうち1両を「自転車・車いす・ベビーカー専用スペース」にした列車を運行させ、これらのスペースを利用する場合は運賃にプラスして50~200円(時間帯によって変動)を追加で支払うという運用も考えられる。そして、追加で徴収する料金を原資にして駅構内の自転車・車いす・ベビーカー専用スペースの拡充に充てていくことも考えられるだろう。

【参考】デンマーク、コペンハーゲンの自転車専用列車・車両
http://ziziteto.jugem.jp/?eid=168
【参考】日本国内でのサイクルトレインの状況
http://www.unico-jp.com/bike_info/2981/

 2つめは、コロナ禍によって以前のように人が乗らなくなるなら、「人だけでなく、モノを運ぶ」という機能の拡充である。
 コロナ禍の中で脚光を浴びたサービスの1つとしてUber Eatsがあるが、例えば池上線・東急多摩川線の沿線の飲食店とタイアップして食べ物を電車で運び、最寄駅でピックアップできる仕組みを取り入れられないか。料金は電車の運賃+サービス料という形で徴収するイメージである。また一部の駅では、電車で取り寄せた食べ物をフードコートのように、その場で食べることができるとなおよい。
 数年前に池上線の一日無料乗車キャンペーンとあわせて開催された「池上線全線祭り」の際には、実際に沿線の駅前商店街の道路空間や一部店舗を使って「ストリートビュッフェ」が開催された。コロナ禍をきっかけに、道路空間を飲食に開放していくという動きもあることから、こうした流れと上手く連携できると良いと思う。

■「池上線全線祭り」のイメージマップ(https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20180830.pdfより)

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 類似の取組として、2020年8月には一般社団法人藤沢駅周辺地区エリアマネジメントが藤沢駅北口の歩行者デッキで、地元飲食店が持ち帰りの料理を販売する「テイクアウトパーク」を実施した。これは新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた地域の飲食店を支援する目的で、市内の飲食店が毎日数店舗ずつ出店し、日替わりでメニューを販売するものである。

【参考】神奈川県の藤沢駅前に「テイクアウトパーク」(日本経済新聞・2020年8月17日記事)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62718450X10C20A8L82000/

 「人だけでなく、モノを運ぶ」という機能の派生形として、個人的にぜひ実現してほしいと思うのが、「駅と電車内のライブラリー化」である。東急と大田区が推進する「池上エリアリノベーションプロジェクト」の成果として、2020年7月に3つの取組が発表されているが、その中の1つに「ブックスタジオ」がある。これは本の棚ごとに利用者を募り、利用者は棚の中に書籍を自由に設置・販売ができるとともに、来店者は店内のさまざまな棚に陳列された本を手に取って、購入ができる仕組みである。
 例えば池上線の複数の駅に本の棚を設けて、来店者が乗車駅の棚から取った本を、電車の中で見て、降車駅で購入あるいは返却するような仕組みに応用できないか。ただその場合に、無断で持ち帰ろうとする人をどうチェックするのかが課題になるだろう。池上線内の利用であれば本にあらかじめタグをつけて、購入しない本を持ち去る場合は自動改札通過時にセンサーが反応するような形で対応できる。しかし大井町線などを経由して、東京メトロなどの他社線に行ってしまう場合は追跡が困難になるという課題はある。
 本も紙媒体ではなく、スマホやタブレットを使って電子媒体で閲覧可能な形にするとともに、例えば東急が提供するWi-Fiを使ってのみ閲覧できるようにすれば、上記の課題も解決できる上、感染症の対策にもなるのかもしれない。

■池上エリアリノベーションプロジェクトでのブックスタジオの取組ついて(https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200730_1.pdfより)

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