見出し画像

【ショートショート】砂糖と鋸

…あれ、ねちゃってた。
シャッキリしようと思って、コーヒーを淹れようとしているうちに船を漕いでちゃ、世話ないわ。

ええと、どこまで準備してたっけ。
コーヒーはフィルターに入ってるし、カップにセットもしてある。

なら、お湯を沸かさなきゃ。
でもまだ眠いなぁ。
立ち上がる力が湧いてこない。

カチッ。ボワッ。

…え?

わたし、まだ夢の中なの?
いま、勝手にガスがついたよね?

カチャン。

はっ?

コーヒースプーンがソーサーに置かれた?

あ、これは絶対夢だ。
魔法使いになった夢なんて、小さな頃みたい。いや、魔法で空を飛んだりするんじゃなくて、楽してコーヒーを淹れる夢なんて。普段よほど疲れてるのかな。

じゃああとは角砂糖も宙を舞ってソーサーにきたり、カップが喋り出したりするのかな。飲みづらいからちょっとやだな。

あれ?思ってるのと違う動き。角砂糖が二つに割れて、テーブルの上を、ずりずり動いてくる。なんだ、これ?

…あ、なるほど、これ魔法の夢じゃないのね。

ねえ、あなたたちどなた?なんで私のコーヒーの支度を整えてくれるの?そんな、角砂糖も半分にしないと運べないような小さな体で、なんでそんなに頑張ってくれるの?
なんか疲れてるからかわいそうで?
あらそう、優しいのね(複雑な気分だけど…)

ガスをつけてくれたのもあなたたち?そう、仲間なのね。危ないから今度からは私がやるって伝えてね。「今度」がいつだか分からないけど、またこのを夢を見た時にはね。

みんな、普段は私の家にいるの?民話みたいに私の家のものを拝借したりしてる感じ?
え、バカにするな? あ、いやごめんねそんなつもりは無いの。じゃ、どんな感じで暮らしてるの?

…へぇ、じゃあこびとさんというより妖精さんに近い感じね。
あ、そう言われるとうれしいもんなのね。それはよかった。

あら、お湯が沸いたね。いーのいーの、そこは流石に私にさせて。危ないし、それに私、そそぐのうまいの。
せっかくなら、皆さんも飲む?あんまり小さな器がないけど、お猪口でいいかな。

さあ、皆さんでいただきましょう。お砂糖、粉のやつ置いておくから、好きなように使ってね。

…おいしい…!なにこれ、今まで飲んだ中でも一番美味しい!
夢の中だから理想の味になってるのかな。

あなたたちも美味しい?そう、よかった。

…ふう、美味しかった。
あなたたちとも一緒におしゃべりしながらコーヒーを飲めて楽しい時間だったわ。でもそろそろ起きなくちゃ。

じゃあね、妖精さん。また、この夢を見られたら、そのときに会いましょう。


…さ、て、今度こそ目が覚めた。
素敵な夢だったし、コーヒーも美味しかったなぁ。
あんなコーヒーを現実でも淹れられたらいいんだけどね。

さて、ガスのスイッチを入れて、しばし待つ…と。
あとはスプーンとお砂糖ね。
砂糖入れの蓋、なんか硬い。うん、しょ!ふう。
このあと眠くならないように、二つくらい入れようかな。

…え!? ってことはあれは夢じゃ…いやそんな…
でも、そうとしか考えられないよねぇ。

こんな小さなノコギリ、人間サイズじゃないものねぇ。。

…もしもし、妖精さん?そこにいます?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?