何をするにも、YouTubeはやっとかなきゃね、という時代になった
つい一昨年(2019年)くらいまでは、YouTubeは自分とは無縁のプラットフォームだと思っていた。とんがった一部の若い人たちが夢中になるものでしょう、あれは。そう思っていたし、実際そうだったと思う。中高年にはせいぜい、CMや映画の予告編などを見るために接触する場で、自分が日常的に視聴したり、ましてや自分が動画を置いたりすることはないだろうと思い込んでいた。
メディア酔談登録者1万人の内訳は?
2019年に「メディア酔談」というトークライブ配信をはじめた。メディアと政治についてけっこうハードな話を酔いながら面白く語るもので、当初はFacebook Liveで配信していた。あとから見てくれる人も含めて、1000人とか2000人くらいは見てくれていた。そんなところで十分のつもりでいた。
2020年に入る直前に、何か直感的に「次はYouTubeで配信しよう!」と決めた。感覚的にだが、YouTubeがこれまでと違うプラットフォームになると思ったのだ。すでにテレビを主な舞台にしていたタレントたちがチャンネルを持ち始めていた。YouTubeは「テレビの次のプラットフォーム」になると確信したのだ。
「メディア酔談」を1月からYouTubeで開始し、2月まではまあまあ、といったところだった。一緒にやっていた男が3月に大スクープを物にした。これは!と、それを題材に据えたら400人くらいしかいなかった登録者数が1週間で4000人になり、毎週やってたらすぐに1万人に達した。
いいスタートを切れたことを喜びつつ、どんな人が見ているのか、データを見て驚愕した。
ちょ、ちょっと待ってくれ!YouTubeでやろうと考えた理由の一つは、若い世代が見てくれると思ったからだった。ところが65歳以上が半分強。55歳以上までだと77%だ。男性比率が56%で、ほとんどおじさん、いやおじいちゃんが見ていたのだ。なんだかガックリきた。
データにはどこから見にきたかもあった。
ブラウジング機能、関連動画がほとんどで、合わせて71.6%。関連動画は、何かを見ていると横に表示されるリストのことだがブラウジング機能って?調べると、最初に出てくるお勧め動画のことだった。
うーん、そうか。わかってきたぞ!
まず、この時すでにYouTubeの利用者層は大きく広がっていた。とんがった一部の若者からどんどん広がり、その円は高齢層にも達していたのだ。実際、テレビ番組に飽きてYouTubeを見る団塊の世代は思いの外多い。
一方、政治的な動画はYouTubeの中でジャンルとしてポジションを得ている。単純なニュースだけではなく、そうしたニュースの裏を解説するような動画、中には怪しいものもかなりあるが、こうした動画を左寄りが多い団塊の世代の権力批判が大好きなおじいちゃんたちが見るのだ。そうした動画の関連動画の中に、メディア酔談もリストアップされていた。そこからたくさんのおじいちゃんたちが「メディア酔談」に流入した。そんなことが推測できた。
YouTubeは巨大な書店と化している
だからYouTubeは早くも高齢層のメディアになった、と言いたいわけではない。それくらい広がったということだ。あらゆる趣味嗜好を持つ人に合わせた、あらゆるYouTuberたちが、そのクラスターのためだけに動画を作り、毎日のようにアップロードする。
一つの典型が、野球専門チャンネル「トクサンTV」だ。
運営しているのは草野球仲間のトクサン、ライパチ、そしてアニキだ。3人とも草野球としてはかなりのレベルの選手。彼らが著名選手に挑戦したり、様々な難題に挑戦していく様をほぼ毎日更新している。野球好きで自分もまだ草野球チームで頑張っているような人たちからするとたまらないだろう。
登録者数は60万人だ。もっと多いYouTuberもいるが、何しろ野球チャンネルだ。野球が好きな人が凝縮されているのは大きな強みになる。
いまYouTubeは、本当に多様な動画が載っている。紅茶の作法と飲み方、編み物や手芸のチャンネル、料理、登山、ビジネス、などなどなどなど。載っていない分野はないと言っていいほどの広がりだ。例えると本屋が近いと思う。あらゆる情報が引き出せる。もはや、暴走する若者が行き過ぎた迷惑行為で耳目を集める場、ではない。
私は高校時代にギターばかり弾いていた。その頃のバンド仲間が、同窓会で再結成しようと誘ってきたので、何十年ぶりかで練習を始めた。せっかくだから、若い頃弾きたかった曲を練習しようと楽譜を探したが、もうAmazonで探しても中古さえ見つからない。
試しにYouTubeで検索すると、ちゃんとあるではないか。
私からすると息子のような若者が、懇切丁寧にこの曲を教えてくれる。何十年も弾き方がわからなかった曲の弾き方が、楽譜より詳しくわかった。弾けるようになったかは聞かないで欲しいが。
放送にせよ何にせよ、すべてがオンラインになる
2020年は誰もが言うように、進むべき方向への時計の針が一気に進んだ。3年先、5年先に起こるべきことが2020年に起こってしまった。あるいは、3年前、5年前に起こっているべきことが起こってしまった。
テレビとネットの融合で言うと、もっと前に起こっていたはずなのに放送業界がモタモタしていたことが、業界を置いて行って先へ行ってしまった。視聴者はもう、放送について行こうとか合わせようとかしていない。送り出す側の時間に合わせないといけないなら要りません。だってうちのテレビはネットに繋がっていて、好きな時に見たいものを見ますから。
その結果、放送の地位が下がり、配信が当たり前の経路になった。すでに進んでいたYouTubeのユーザー層の広がりはダメ押し的に一気に拡大し、有料分野ではNetflixが若い世代の当たり前のサービスになった。彼らはもうテレビ放送には戻らない。テレビはNetflixやYouTubeを見るためのデバイスになり、そういえばコロナの感染者は?という時、文字通り思い出したように放送をつけて見るのだ。ゆくゆくそうなっちゃうぞ、ではなく、すでにそうなった。まだまだ圧倒的に多い団塊の世代が数的には支えてくれているが、時間の問題になった。
それでもテレビ放送が生き残るためには、オンラインにガンガン出るしかないし、YouTubeを積極的に使ってビジネスモデルを開発しつつ、有料配信にもどんどん番組を出すしかない。動画だけでなく様々なオンライン経路でのコンテンツの出し方をテキストと静止画も含めて模索するしかないのだ。
同じように、様々なことが、オンライン化し、その要の一つにYouTubeがでんと居座ることになる。どういう形であれ、YouTubeでのコミュニケーション方法を考える必要があるのだ。
これは「オフライン」の部分にテレビ局なら「放送」と入れる。小売なら「店舗」と入れる。そういう図のつもりだ。2000年代にWEBを持つのが当たり前になった。2010年代にはSNSをやるのが必須になった。2020年代はそこにYouTubeが加わる。いや、やってましたけど。もしそうなら、使い方を見直す時だ。もっとアクティブで能動的な情報発信の場として使うということだ。CMやプロモーション、インタビューなどの「動画置き場」だったのを、発信の場にするということだ。
YouTubeについてはもう少し書いていくつもりだが、ここでお知らせ。3月30日にウェビナーを開催します。
上に紹介した「トクサンTV」を運営するアニキ社長こと平山勝雄氏と、最近動画制作についての新著を出して早くも増刷となっている鎮目博道氏をお迎えする。
平山氏は元読売テレビ、鎮目氏は元テレビ朝日でバリバリのテレビ制作者だった。そんな彼らがテレビの経験を生かしながらも新しい動画制作に挑んでいることをテーマにしたウェビナーだ。YouTubeをどう面白くできるか、きっと吸収してもらえる。ぜひご参加ください!
※↑境治が運営するテレビとネットの横断業界誌MediaBorderは月額700円のnote上のマガジンです。ご購読を!
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