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FASTは「次のテレビ」の代表選手かもしれない

放送みたいな配信サービス、FAST

1月25日(水)開催のウェビナー「海外事例から考えるテレビの未来〜FASTとPSMを題材に〜」で取り上げるFASTとは何か、なぜこのタイミングで紹介するのか、少し解説しておきたい。

FASTはFree Ad-supported Streaming TV("Streaming"を入れない表記も多い)の略で、広告モデルのリニア型配信サービスだ。放送ではないが、放送みたいな配信形式だと言える。映像配信サービスと言えば、オンデマンドだった。サービスの分類も広告型のAVOD(TVerなど)、有料定額のSVOD(Netflixなど)と必ず"VOD" (Video On Demand)がついていたが、FASTはVODではない。

放送とは違ってライブではないし"編成"もカチッとしていない。様々なジャンルでニッチなチャンネル展開をしているという。CSチャンネルの配信版と言えば想像しやすい。また、ABEMAはニュースチャンネル以外はFASTを展開しているとも言える。

視聴の多様化の受け皿としてのFAST

FASTは放送が行き詰まった今、「その次のテレビ」になるかもしれないと、個人的経験から感じている。正直言って、今地上波テレビのゴールデンタイムはクイズやゲームのバラエティで埋め尽くされ、同じ出演者が入れ替わり出ている。私には見たい番組はまったくと言っていいほどない。

これだけ次々に驚くべき出来事が起こっている今、もっとニュースが見たいと思っている。そこで最近は7時台、8時台はBSを見るようになってきた。BS-TBS「報道1930」BSフジ「プライムニュース」などだ。ところがこれらも、毎日毎日ウクライナと旧統一教会の話ばかりだ。高齢男性が好む話題なのだろう。私もすでに高齢に入ったが、辟易してしまう。

そこで次に、CSの24時間ニュースチャンネルを見ることが増えた。TBSと日テレがCSでニュースを放送している。次々に多様な話題が取り上げられていい。だがこれも、30分単位で同じニュースを流すので、飽きてしまう。

日本中でニュースは制作されている。30分では済まないはずだ。それを延々流してくれれば私のニーズは満たせる。つまり、24時間日本中のニュースを配信するFASTを、ということになる。

同じことは様々なジャンルで考えられるはずだ。24時間旅番組を流すFAST、延々深夜バラエティを流すFAST、料理番組だけのFAST、などなど。古いアーカイブを復活させた2時間サスペンスばかりのFASTもアリかもしれない。放送とは別の選択肢をテレビ局が提示する手法として、FASTは大いに検討すべき形式だ。

VODは広告にあまり向かない?

このFASTを知った時、広告の受け皿としてもVODよりずっといいのではと感じた。Netflix広告つきプランを試した時、VODサービスがいかに広告を見せるのに向かないか痛感したのだ。さすがにNetflixは、上質なドラマの視聴を邪魔しないように慎重にCM枠を設定している。そのため、基本的にはプリロールつまりドラマが始まる前にCM枠を設定し、ドラマの途中にはほとんどCMを見せない。これでは広告主からすると物足りないだろう。実際、広告つきプランが始まっても広告主と約束したCM視聴回数を満たせず返金に応じたとニュースになった。

あるいはYouTube。私もかなり視聴経験を重ねてきたが、そのCMの出し方にまったく慣れない。どうしてもSNSなどでのリンク経由で見ることが多いので、さあ見るぞ!と思ったらチープなCMが流れてかなりイラッとくる。CMもいかにもB級企業の怪しい商品が多いし、テレビで見たCMの短縮版しか機能できないのではと考えている。

VODはCMにあまり向かないのだ。ただしTVerは少し違う。「テレビ局のサービス」との認識で視聴するし、放送と同じタイミングでCMが入るのは自然に受け止めやすい。そうは言ってもCM枠を増やすのは危険なので注意が必要だが。

FASTは広告の受け皿にも最適?

テレビ放送は広告商品として非常に効果が高かった。それは、ボーッと見てるとどんどんCMに接触し、視聴者もある程度納得の上でテレビを見ていたからだ。今はスマホのながら視聴が多いと言われるが、これまでだって家族で食事しながら、出かける準備をしながら、夜くつろいで新聞や雑誌を読みながら、いや、何をしながらでもなくただゴロゴロしながら楽しんでいた。その合間にCMを何度も見て広告主が伝えたいことは伝わった。何度も見れば、だが。

リラックスモードで、ソファに寝そべってリーンバックでコンテンツを流し続ける。その合間にCMを見せる。場合によっては何時間もその状態が続く。これほど強い広告メディアはない。

FASTは、現象としてはテレビ放送とほとんど同じだ。VODのように前のめりにならず、VODのようにCMが邪魔にならない。番組のジャンルが好みに合えば放送より長く見そうだ。放送の次の広告システムとしてこれほど有望なものはないと私は思う。

もちろんまだ机上の空論に過ぎないが、少なくともアメリカではここ数年で急成長している。また、FASTサービスがテレビ局グループに買収され、テレビビジネスの成長の一翼を担いはじめている。

アメリカのテレビ局は放送収入が日本同様頭打ちなのに、売上全体としては再成長している。FASTに限らず、配信サービスで番組を見せ、プログラマティック広告など新しい広告商品を開発してきたからだ。日本の業界は、これまでのスタイルを守ることばかりにエネルギーを注ぎ、放送の次の開拓を怠ってきた。遅すぎた分、開拓を加速せねばならない。新しい方向へ舵を切る、これが最後のチャンスではないだろうか。ウェビナーに参加し、一緒に議論できればと思う。

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