2023年、MediaBorder的10大ニュース(後編)
※トップ画像はAdobe Fireflyで「ローカル局は再編を迫られCTV市場の誕生が待たれる」と入力して出てきた生成Ai画像
昨日の前編に続いて、今年の10大ニュース後編として6〜10をお届けする。
6:ローカル局再編の予兆
すでに総務省の有識者会議では放送業界の縮小を前提にした議論が進んでおり、ローカル局をキー局傘下に入れやすくしたり、数局に分かれていた局が同じ内容を放送するのも選択としてありになっていた。今年度は赤字局がいくつも出るとの噂で、にわかにこうした新制度を使ってキー局傘下に入ったり再編するローカル局が出てくる、その予兆が見られている。
テレビ朝日系列は3県ずつで1局にまとまる方向性が出ていると言われている。そのためにキー局から役員が東北の局に赴任しているからだ。
東北のテレビ朝日系列6局は、まとまって「topo」という映像配信サービスをスタートさせた。
筆者もさっそく登録してみたが、ローカル局がまとまることの困難さを思い知った感がある。「topo」はサービスとして再設計をお奨めする。
まず無料登録時に氏名と住所、電話番号をすべて入力させられる。普通ならこの時点で8割くらい離脱するだろう。なぜ今時、ここまで個人情報を入れさせるのか。何に使おうというのだろう。
そして動画が「無料」「会員無料」「定額見放題」「レンタル」に分かれていてシステムがややこしい。定額は月々550円で、夕方の情報番組の1コーナーをお金を払って見る人がいるはずがない。すべて無料にして広告型にすべきだった。
「topo」の先に再編の具体像は見えてこない。逆に、こんなに混乱したサービスを立ち上げてしまうことに、再編の困難が滲み出てしまっている。
ローカル局の再編はキー局主導ではうまくいかないと思う。ローカル局側がまとまって何をしたいか、どう組むつもりかを先によくよく議論しないといけないのではないか。このテーマは来年以降、さらに掘り下げるべきだろう。
7:CTV市場への注目とCMの売り方の模索
CTVとはConnectedTVの略で、広義ではネットに繋がったテレビの使い方、つまりYouTubeやNetflixなどジャンルを問わずにテレビでネット動画を楽しむ行為のことだが、狭義でCTVと言えばその中の広告市場のことを指す。その多くはYouTubeが占めているが、それとは別にTVerとABEMAなど、テレビ局側が運営するサービスも重要だ。特にテレビ局にとっては、放送収入が下がる分をCTV市場を育てて補っていきたいところだ。とは言え22年の地上波の広告収入は1兆6千億円に対し、TVerやABEMAなどを合わせた広告収入は358億円。まだ2%といったところ。ただし前年比で40%以上伸びているので、同じペースで成長すると2030年には5千億円になるはず。CTVに全勢力を傾ける必要があるだろう。
併せて、CTV時代に向けて、あるいは下降の一途を辿る放送収入を守るために、CMの売り方も考えないわけにはいかない。と、思っていたら日本テレビがARMプラットフォームなるものを発表した。
11月27日の発表直前に話を聞きに行ったのだが、なかなかよく考えられている。これについてはセミナー告知記事の中で少し詳しく触れているので興味があれば読んでもらいたい。24年度末のリリースなので、その時までにじっくり広告主や代理店に説明していく予定だそうだ。
ARMに限らず、来年はこうしたCMの売り方の選択肢を増やす議論が活発になりそうだ。
8:FASTの議論が活発に
活発に業界でFASTの議論がなされたわけだが、いちばん議論していたのは私かもしれない。あちこちに書いたし、今年の頭にセミナーもやった。Inter BEEでも直接は担当しなかったがサポート役となって奥村文隆氏のブッキングなども手伝った。
FASTでポイントなのは、米国市場では単純にSVODに代わるものとしてではなく、有料と組み合わせたりしてサービスの形態が固定的ではなくなったことだ。日本でも、単独で登場するかの前に、既存サービスに付加してスタートするかもしれない。Leminoも、立ち上げ時の取材ではFASTとしてスタートしたかったと言っていた。
一方で、米国のFASTプレイヤーが日本で様々な交渉をしている様子だ。おそらく来年には、既存サービスにFASTが追加されたり、日本で誰かが単独で立ち上げたり、米国のサービスが上陸したりするだろう。2015年にSVODが一気に続々登場したが、似たようなことに来年なると予測している。
こちらの日経ビジネスでの連載も紹介しておきたい
9:ネット広告グダグダに
インターネット広告は昨年ついに4マス媒体の広告費さえ超えた。それほど伸びるネット広告だが、中身はもうむちゃくちゃなことになっている。テレビを始め旧メディアは必ずしもネットに負けたわけではなく、今起こっているのは共倒れと受け止めるべきかもしれない。
このテーマはMediaBorderでは記事にしなかったが、日々ネットに触れていると誰しも感じているだろう。例えばFacebookに表示される広告が、いよいよ怪しいものが増えてきた。著名人の名前や写真を使っているが、絶対フェイクだし許諾もとっていないのは見え見え。そんな広告で怪しい情報商材などを売っているようだ。
あるいは、ネット上のメディア全般の広告表示があまりにもひどい。記事を読もうと開くと、本文に覆いかぶさるように幾つもの広告が表示され、記事が読めない。これでネット広告市場が成り立っているとしたら、広告主はお金をイメージを悪くするために使っているようなものだ。
しかもFacebookやX(Twitter)が自分たちのドメインからユーザーが出て行かないように、外部の記事へのリンク表示にものすごく消極的になっている。ネット上でのコンテンツとメディアのエコシステムが崩壊寸前になり、悪辣な事業者だけが得をする世界になりかねない。
私は3年前にそれを啓発するつもりで本を書き、いい方向に向かっているとレポートしたのだが、いい方向への力に悪い方向への力が勝ってしまい、状況は悪くなるばかりだ。
このテーマは来年追うべきものの一つになりそうだ。
10:自民党に呼ばれる
MediaBorder的ニュースというより、私個人のニュースというべきだが、今年は政界にアプローチした。
呼ばれたことを自慢したいのではなく、メディアの今後を考える上で、政界へのアプローチも必要になっている、その象徴として受け止めてもらいたい。
ある元官僚の方が言っていたのだが、放送業界のロビイングは他の業界に比べると上品なのだそうだ。他の業界はもっとグイグイ押してきて、官僚の側もずけずけ言い、そんな中から業界に何が必要か理解し合うことができ、結果として物事がうまく進むというのだ。
放送業界の場合、そもそも官僚の側にメディアというものにあまり口出しすべきではないのでは、との遠慮があるそうだ。メディアは自主独立の存在でなければならず、民主主義社会の不文律として、行政が関与しすぎてはならない。そんな思いがあるらしい。結果的にお互い気を遣い合い、よく言えば紳士的、悪く言うと距離がある関係になっている。
だが今ほど政治や行政とメディアが関わるべき時はないと思う。誰も正解がわからないまま、苦しくなったりむちゃくちゃになったりしている中、ほっておくと言論空間が荒野のようにすさんでしまう。
私としては、まがりなりにもできた細いつながりを、うまく活かしていきたいと考えている。
番外:さんいん中央テレビと田部長右衛門氏に感服
今年のMediaBorderでもっとも読まれたのがこの記事だ。
noteは様々な人々が書いた記事から注目記事を集約するページを日々更新しており、その中で取り上げられたのだ。MediaBorderの記事は基本的には数百名の購読者向けなので、たまたまそれ以外の人が読んでくれたものでも多くて1000〜2000PV程度。ところがこの記事だけ1万PVを超えた。
メディア論を超えた面白さがあったのだろう。実際、田部氏の発想はテレビ局の範疇を超えて、完全に事業家だ。家業の一つであるテレビ局を、島根の財閥のトップとして経営している。そこにはメディアの重要性もあるし、テレビへの愛もある。だがそれ以上に彼は島根を背負っており、そのためのコミュニケーションの核がテレビ局なのだ。
そんな彼も、フジテレビでの修行を終え30歳をすぎてさんいん中央テレビに戻ってから、いきなりお殿様のように家老たちがひれ伏したわけではなく、戦って主権を勝ち取った。
ローカル局の経営者に必要なのは、自分の信念を貫く覚悟であり、それは血筋だけで済むものではなく、胆力で勝ち取るものなのだ。
田部氏とさんいん中央テレビも、もっと掘り下げたい対象だと考えている。
2023年の10大ニュース、どうだったでしょうか。今年も語るべきことが多い一年でしたが、来年はもっと激動が起きると想像しています。その先っちょを追いかけていきますので、来年もMediaBorderをよろしくお願いいたします。
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