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金木犀おばあちゃんと通帳おばあちゃん

朝、出勤するためにバスを待っていた。

バス停で目の前のベンチに座ってたおばあちゃんが、立ち上がって垣根まで歩いて、金木犀の匂い嗅いで、ベンチに戻った。私は心の中で「いい匂いだよね」と思った。

その後すぐに、その隣に通帳を眺めるおばあちゃんが座った。

しばらくすると、「もうなに!!!」「金木犀!!!」という2人のおばあちゃんの絶叫が聞こえて、私は驚いて2人の様子を見た。

すると通帳おばあちゃんは「もう!いらんことばっかり言わんといて!!!」と金木犀おばあちゃんにブチ切れていた。

金木犀おばあちゃんは、よほど驚いたのだろう、爆笑し、すぐに俯いて目を瞑って黙ってしまった。

私は、通帳おばあちゃんやばすぎではと思ってよく見たら、なんと首に「耳が不自由です」というプレートを下げていて、ちょうど金木犀おばあちゃんからは見えなそうな位置にあった。

2人はおそらく他人で、金木犀おばあちゃんはたまたま隣に座った通帳おばあちゃんに「金木犀いい匂いだね」を共有・共感し合いたかったのだろう。
一方で、通帳おばあちゃんは、耳が不自由なことで日々苦労をしているのだろう。誰かに話しかけられること自体がストレスなのかもしれない。

私はどちらにも何も言えないままバスに乗った。せめて金木犀おばあちゃんには金木犀いい匂いだねと言いたかった。

おわり


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