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10年後の『あまちゃん』考 〜ユイちゃんと北三陸

『あまちゃん』再放送が最終回を迎えました。
放送10年を記念しての再放送だったそうですが、じぇじぇじぇ!とか軽快なオープニング曲とか、アマロスとか、潮騒のメモリーズで紅白に出たりとか、当時いろんな話題になりました。
そんな『あまちゃん』のことをすこーし考察してみました。
クドカンさんのインタビューなどを読んだことないので今さら~な内容かもしれませんがお付き合いくださると嬉しいです。
なお俳優さんたちのお名前は敬称略させていただきます。



震災がテーマだった

『あまちゃん』は朝ドラ王道の女の子の成長物語であるだけでなく、後半は震災が大きなテーマになっていました。
放送が2013年、震災の2年後。
ということは、震災の翌年(あるいは震災の年)から制作や撮影が行われていたということです。
よく考えるとすごいことです。いろんな反発もあったかもしれません。

あらすじ
主人公・天野アキ(能年玲奈/のん)が東京から北三陸にやってきて、祖母(宮本信子)や地元の人たちとの交流を通して暗い性格から明るい女の子になり、海女さんしたり恋したり親友と地元のアイドルをやったり、さらには東京でアイドルを目指したりするお話です。
アキの母・春子(小泉今日子)が若い時に芸能界と関わりがあり80年代の風物が出てきます。そして震災。地元が復興に向かう姿でドラマは終わります。

上京できなかったユイちゃん

10年前に見た時は80年代ネタがとにかく面白かったのですが(おばさん世代だから)、今回は途中からユイちゃん(橋本愛)の存在がものすごく気になってきました。

ユイちゃんはアキが北三陸で出会い親友になった女の子。自他ともに認める美少女で「東京に出てアイドルになりたい!」という野望を持っていました。
何度か上京しようとするのですが、その都度家庭の事情やらいろんな障害に阻まれ上京がかないません。
途中ぐれてヤンキー?(あばずれ女?)になるのですがアキの母・春子の愛のお説教で改心。
元のお嬢さんに戻って今度こそ!東京に向かおうとするところで震災にあい、トンネル内の車両に閉じ込められ、おかげで津波をまぬがれました。
(実際にトンネルにいて助かった「奇跡の車両」があったそうです)

トンネルの外の変わり果てた光景を見て言葉を失うユイちゃん。
震災の回は何度見ても胸に迫ります。
ちなみにドラマの初めのほうから観光協会のジオラマがよく出ていたのですが、そのジオラマで津波を表現していました。このためにジオラマがあったのか…。

北三陸のアイコン

さて。ユイちゃん自身は田舎が大嫌いだったけど、北三陸がユイちゃんが手放さなかった。
ユイちゃんは上京してアイドルになるという夢を失いますが、代わりにアキと一緒に地元のアイドルをやることで地元に向き合い始めます。

そんなユイのことを、元芸能マネージャーの水口(松田龍平)が、琥珀(こはく)にたとえてこんな風に評していました(実際に久慈地方は琥珀の産地だそうです)。
8500万年前のアリの入った琥珀をプロデューサーの太巻(古田新太)に見せながら、

真ん中のアリがユイちゃんで、そのまわりを固める樹液が地元意識なんじゃないかって。
アキちゃんみたいに日の目を見ることはなかったけど、地元意識に守られて、ユイちゃんの魅力は永遠に色褪せないっていう。

ユイは東京でアイドルになれなかったけれど、あたたかい地元に守られて(見方によっては閉じ込められて)永遠に地元のアイコン的な存在になる…。
まさに北三陸の唯(ユイ)一無二の存在。

「可愛いほう」、「日の目を見なかったほう」

琥珀のたとえはもう一つの側面もあります。
アイドルとして世に出たアキに対して日の目を見なかったユイ。
これはアキの親世代の大女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と、彼女の影武者(歌声の代役)をやらされた母・春子との対比にも通じています。

ついに鈴鹿ひろ美が自分の声で歌ったチャリティーコンサートの後、ユイはアキにこう聞きます。(ユイのセリフだけ抜き出します)

アキちゃんはさ、どっちが辛かったと思う? 鈴鹿さんと春子さん。
私は鈴鹿さんの方が辛かったと思うんだよね
なんとなく。 ステージ見ててそう思った

元々水口が二人をスカウトしたとき、アキとユイは「潮騒のメモリーズ」というご当地アイドルをやっていました。そしてユイが「可愛いほう」、アキが「なまってるほう」と呼ばれていました。ニコイチ(で合ってる?)の対比表現。

ユイは「可愛いほう」であり「日の目を見なかったほう」なんだけど、大女優の葛藤や諦めを想像できてしまった。
そして自分自身のこともわかっていた。
アキのように周りを巻き込んで誰からも愛される存在に、自分はなれないと。

「おばあちゃんになるまで潮騒のメモリーズをやります!」って太巻に宣言してたけど、もちろんそんなのできないこともわかってて(本当はやってほしいけど)自分の次のステップのことも冷静に考えてるんだろうなあ。
市長の娘って立場と可愛さを武器に。

見ないふりして陽気に明るく

震災に話を戻すと、2021年放送の朝ドラ『おかえりモネ』でも震災を扱っていて、家族や仕事を失う喪失感が深く描かれていました。
対して『あまちゃん』は時間的な距離が近すぎたのでしょう、人の死や、震災に関わるさまざまな葛藤にはほとんど触れず、あえてひたすら明るく陽気に「見ないふり」をしていたように思います。

アキにとって地元の復興はユイちゃんを励ますこと。
「ユイちゃんを励ますアキ」という構図がそのまま「東北を励ます朝ドラ」になっていたように思います。

ラストは二人が線路に降りて、ユイが震災の時に閉じ込められた畑野のトンネルを、今度はアキと二人で駆けて行く。トンネルの出口と二人のシルエット。
キラキラしてて、すごくいいシーンです。
アキがいるからユイ(北三陸)は大丈夫。

あれから12年(あとがき)

ドラマから10年、震災から12年。コロナ禍があり、毎年各地で台風や豪雨の被害があり、あの震災の衝撃が薄れてきていることは否めない。
女優さんもお名前が変わったりとか色々。
ドラマとは関係ないけど、あのとき、寒空のした海に向かってお母さーんと呼びかけていた女の子のことが忘れられない。
忘れないことが、次の災害を少しでも減らしてくれるんじゃないか、とすがるように願っている。

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